9月1日に南アフリカで行われた「UCIパラサイクリング世界選手権ロード大会」のタイムトライアル部門で優勝した野口佳子さん(46)=関戸在住=が10月6日、阿部裕行多摩市長に優勝報告をするため、多摩市役所を訪問した。野口さんは昨年4月、自転車競技のレース中に落車して意識不明の重体となり、高次脳機能障害が残りながらも今年5月からパラサイクリングに挑戦。復帰2大会目で快挙を成し遂げた。
パラサイクリングは、UCI(国際自転車連合)が規定する競技規則のもとで行われる障害者の自転車競技。障害の種類、使用する自転車によって4クラスに分けられ、そこからさらに障害の度合いによって各カテゴリーに分けられる。野口さんのカテゴリーは、C3クラス(通常の二輪自転車)で、切断や機能障害、麻痺などの四肢障害を持つ人たちが参加するレースに出場した。
今大会に野口さんは、タイムトライアル(15・5Km)とロードレース(48・6Km)の2部門に出場し、タイムトライアルで優勝、ロードレースで3位と、2部門でメダルを獲得する快挙を成し遂げた。
「できるようになることが楽しかった」
薬剤師の仕事をしながら趣味でトライアスロンに取り組んでいた野口さん。自転車競技の実業団に誘われ、昨年4月に静岡県の修善寺で行われたロードレースの大会に参加。レース中に転倒し、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨・鎖骨・肋骨・肩甲骨を粉砕骨折、三半規管損傷を負い、意識不明の状態に。医師から「治らない」「普通の生活もできるか分からない」と言われていたという。
意識を取り戻した後、「最初は家族のこともわからなかった」という中で、リハビリを開始。漢字・計算ドリルを繰り返し行い、友達とSNSで画像、メッセージのやり取りをしているうちに徐々に記憶を取り戻していった。「毎日、何かできるようになっていくのが楽しかった」と振り返る。
リハビリを続けている時に医師から「自転車が好きなら」とエアロバイクを勧められ、自転車に乗ることもできるようになった。ちょうどその頃に、知人からパラサイクリングを勧められた。同じ障害を持ちながらも活躍している選手や、医師に復帰した人がいることを知り、「自転車に乗れる」「薬剤師に戻れる」と、その思いを胸に「頑張れたら同じような境遇の人にも伝えることができる」と、自転車の練習と薬剤師の勉強を始めた。
自宅や桜ヶ丘のいろは坂などで練習を重ね、迎えた今年5月。ベルギーで行われたパラサイクリングのW杯に日本選手団として出場。競技への復帰を果たし、薬剤師としても仕事を再開。現在、地域で認知症セミナーの講師などを務めているという。
「健康寿命延ばす手伝いを」パラ自転車野口さん
この日、市役所を訪れた野口さんは阿部市長から花束を手渡され、今回の優勝を報告。阿部市長は「怪我から復帰した野口さんの姿は市民だけでなく、日本全国の多くの人たちの希望になる。ぜひそれを伝え続け、東京パラリンピック目指して頑張って下さい」と激励した。
野口さんは、これからの目標を「来年のW杯からポイント制になり、獲得したポイントによってパラリンピックの日本選手の出場枠が決まる。仲間が一人でも多く出られるように、少しでも多くのポイントを獲得したい。日本はまだ欧州に比べて自転車競技の歴史が浅いので、日本は自転車もすごいよというのを広めていけたら」と話す。
重ねて「脳障害の回復にエアロバイクが良いというエビデンスも出てきている。自転車やランニングを広めて健康寿命を延ばすことができるお手伝いができたら。同じように脳に障害を持つ人たちに動く楽しさを知ってもらえるように、その輪を地域で広げていきたい」と今後の目標を語った。
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