メディア芸術の総合フェスティバル「第22回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門でこのほど、豊ヶ丘在住のマンガ家・齋藤なずなさん(73)の作品『夕暮れへ』(青林工藝舎)が次点となる優秀賞を受賞した。齋藤さんにとって20年ぶりの単行本となる同作品。「老い」や「孤独死」といったテーマの短編が描かれ、「ユーモアを交えながら重い題材をするりと読ませてくれる」と評価された。齋藤さんは「評価してもらえて嬉しい」と受賞を喜んだ。
「文化庁メディア芸術祭」は同実行委員会が主催して、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で優れた作品を顕彰し、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルだ。
マンガ部門では、これまでに石塚真一さんの『BLUE GIANT』や東村アキコさんの『かくかくしかじか』などの話題作が最優秀賞を受賞。優秀賞には、弘兼憲史さんの『黄昏流星群』、こうの史代さんの『この世界の片隅に』など数々の名作が選ばれている。
今回は、世界102の国と地域から4384点の作品が集まり、マンガ部門ではBoichiさん(韓国)の『ORIGIN』が最優秀賞を獲得。優秀賞には、齋藤なずなさんの『夕暮れへ』の他、3作品が選ばれた。
「教え子から刺激」
齋藤さんは静岡県富士宮出身。短大時代は都心で暮らし、卒業後はイラストを描く仕事をしていた。40歳の時に生活のためにマンガを描くことを決め、デビュー作『ダリア』でビッグコミック新人賞を受賞。40年前に多摩に移住し、多摩の地で数々の作品を描いてきた。現在は京都精華大学マンガ学部で講師を務めている。
今回の受賞作品は、1992年刊行の『片々草紙』から8作品と、2012年に発表した「トラワレノヒト」「ぼっち死の館」の2作品を収めた10編からなる短編集で、自身20年ぶりとなる単行本。「学生から刺激を受けていた。卒業生が作る同人誌に載せないかと言われて描いたら好評で出版社の勧めで今回本にした」と話す。
今回の受賞で特に評価の高かったのが直近の2作品だ。「トラワレノヒト」は「老い」をテーマに自身の経験を踏まえた独自の視点で、肉親の介護、看取り、人間の尊厳等が描かれている。「ぼっち死の館」は、一人暮らしの老人が集まるニュータウンの古い団地を舞台に、老人たちの会話を中心としたコミュニティを描き、「孤独死」に向き合った作品だ。共に自身の日常や実体験がベースとなっており、多摩市内の身近な風景が描かれているのも見どころだ。
「団塊の世代の人たちに」
「本を出す話があっても、出版社が評価してくれないと出せないし、ちょっとしたタイミングで出せなくなることもある。この本も当初の予定より2年遅れになった。でもそれで今回賞が取れたから」と笑顔で語る。
現在は、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で、「ぼっち死の館」シリーズを不定期連載中。「今は構想を練っているところ。ストーリーを考えるのに時間がかかるの。掲載は大分先になりそう」と苦笑い。今後は「本当はロマンあふれるものを描きたいけど、今は老人の話で頭がいっぱい。団塊の世代の人たちが読んでくれる作品をうまく描いていきたい」と目標を語ってくれた。
なお、同芸術祭の「受賞作品展」が6月1日(土)から16日(日)まで、お台場の日本科学未来館を中心に行われ、齋藤さんの作品も展示される。また夏には貝取商店会の「遊夢」で原画展も開催される予定だという。
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