市内在住で「原爆体験伝承者」として、原爆の記憶を語り継ぐ活動を行っている人がいる。天野佳世子さん(53)だ。
天野さんは、2015年から「くにたち原爆体験伝承者育成プロジェクト」に参加。同プロジェクトは、国立市在住の原爆被爆者でつくる「くにたち桜会」の桂茂之さん、平田忠道さんの体験や平和への思いを受け継ぎ、幅広く伝える事業だ。15カ月間の研修を受講し、16年7月から公民館や企業研修などで伝承活動を行っている。
広島出身の天野さんは入市被爆した父を持つ。幼い頃、原爆の話を身近で聞くことはなく、自身が2世であることも意識することはなかった。23歳の時にボランティアで上京。広島では当たり前だった8月6日に黙祷をする習慣がないことに驚いた。一度帰郷し4年後に再び上京。日々の生活を送る中で、戦争の悲惨さや平和の大切さに、ことさら思いを馳せることもなくなっていった。
語り継ぐ意味
転機となったのは東日本大震災。原発事故による放射能のニュースを聞き、遠い昔の広島の出来事だった被爆について自分事に感じるようになった。「改めて核の怖さを伝えないといけない。過去に広島・長崎で実際に起きた出来事が終わっていないことを考え続けないと」と勉強を始めた。
国立市のプロジェクトでは、平田さんの体験を継承することになったが、この時初めて直で被爆体験を聞いた。言葉にならない重み。それを伝承できるか不安だった。体験を受け継ぎ、第三者が語ることの意味を考えた。ある時、被爆者の一人で国内外で証言活動をしている人に不安を打ち明けた。「聞いた言葉を自身でよく咀嚼し、あなたの人生や日々の暮らしに根差した平和への思いに乗せて語らないと。話し手の温度感や思いが伝わってこそ、大事なメッセージが聞き手の心に届く」と助言をもらった。
それから平田さんの体験とともに自身が思う平和を語るようになった。「戦争をなくしていきたい。そのためには他人を思いやり、尊重し、違いを認め、一人ひとりがかけがえのない存在であることを伝えていくことが大事だと思っています」
若い世代の人たちへ
戦争、原爆体験者から直接話を聞く機会が年々減少している。伝承者としての活動は意義のあるものだと感じる。「若い世代の人たちに聞いてほしい。そこで感じたことを誰かに話し、後々でも自分で考え、行動するきっかけになってくれると嬉しいですね」。今後も先人たちの体験、思いを語り継いでいく。「核兵器のない世界の達成を求めます」の平田さんの言葉とともに。
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