徒然想 連載320 花のお寺 常泉寺 住職・青蔭文雄
今月は瞋(いかり)を以て瞋に報い、打を以て打に報ゆることを得ざれ、です。
出典は中国『梵網経』第二十一、軽戒。
意は、怒りの心を抱いている人に対して、怒りをぶつけてはならない。殴った人を殴り返してはならない、ということです。この文言は報復を禁じたものです。仏教の立場は暴に報いるに暴をもってすることは許されない事なのです。
原始経典『ダンマパダ』(法句経)にも「実にこの世においては怨みに報いるに怨みを以ていたならば、ついに怨みの息(や)むことはない。怨みを捨ててこそ息む。これは永遠の真理である」と書かれています。
第二次世界大戦終結の際、対日賠償請求を放棄したセイロン(現在のスリランカ)の大統領が演説に引用したことで有名な文言です。
怨みを克服する道は、相手に報復することではなく、怨みそのものを捨てること。報復して怨みを晴らすことは、一時の感情的な満足感が得られるに過ぎず、相手はまた報復してくるからです。怒りは暴走する車に例えられますが、強い怒りの炎をしっかり制御できる人こそ真の悟りし者であり、相手を許すことのできる人なのでしょう。
桃蹊庵主 合掌
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