新規連載 海老名むかしばなし 第7話「田の草仁王」
国分の水堂の観音様(千手観音)が今の吾妻の森へ移られてからのことである。
近くの向原(国分尼寺地区)にたいそう意地の悪いおばあさんが住んでいた。おばあさんにはひとりの娘があったが、実はこの子はおばあさんのほんとうの子ではなくまま子であった。
おばあさんは、いつでもこの子に意地の悪いことばかりして困らせていたが、この娘さんは何でも「ハイ」「ハイ」といって一度もさからうようなことはしなかった。それがおばあさんにはしゃくにさわったのだろう。ある日のこと、
「今日はこれから田んぼの草取りをしてきな。全部取り終えなければ帰ってくるでないよ」と、きつくいいつけた。太陽はもう西に傾きかけてだれが考えても日のあるうちに終わらせるのはそれこそ無理なことである。
それでも娘はひとことも苦情はいわずただ「ハイ」と答えていそいそと田んぼへ急いだ。そしてかいがいしく仕事にかかった。腰が痛くなっても伸ばしもせず、ただただ一生けんめいに取るのであった。
夜中までかかるかと思われた草取りが苦労のかいあってかカラスがねぐらに急ぐころにはすっかり終わり、稲もせいせいした顔で喜んでいるように見えた。
思いのほか早く田からあがることができたので、少しまわり道ではあるが日ごろ信仰している清水寺の仁王様にお参りして帰ることにした。
娘は仁王様に手を合わせてしばらく一心に拝んでいた。やがてすっきりした目でひょいと仁王様を見上げて驚いてしまった。なんと仁王様の足が泥んこではないか。田の草が意外と早く片付いたのはこの仁王様のお手助けではないかと思ったのだった。
このうわさはすぐに村中へ広まった。「仁王様が加勢してくださったんだ」とだれもが信じ込んでしまった。それからだれがいうともなく、清水寺の仁王様を「田の草仁王」と呼ぶようになったということである。
参考資料/海老名むかしばなし
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