10月12日に静岡県に上陸した台風19号は、関東地方に大きな被害を残した。記録的豪雨のなか、宮ヶ瀬ダムを管理する相模川水系広域ダム管理事務所では、職員が24時間体制で水位を見守った。緊張の現場を、松若昭雄広域水管理課長に聞いた。
台風が接近する10月11日朝、宮ヶ瀬ダム周辺の予想雨量は40時間で730mm。これは、宮ヶ瀬ダムの設計上で計画されている「2日間で570mm」という雨量を大幅に上回っていた。宮ヶ瀬ダムでは台風が多い洪水期(6月16日から10月15日)に満水の貯水位286mから水位を10・5m下げて運用しているが、台風19号は約10mの水位の余裕では足りない危険な雨量が予想された。
宮ヶ瀬ダムは、洪水対策だけでなく水道水確保や発電など様々な機能を持つ。総貯水量は約2億㎥で芦ノ湖とほぼ同じ。この規模の大きさから、これまでは大雨が予想されても事前の放流ができない運用ルールだった。しかし異常気象が続く近年の状況から、2018年6月に事前放流の運用ルールを制定。洪水期の水位から、さらに水位を下げることが可能になっていた。そこで同事務所では、11日午前10時から事前放流を開始。毎秒最大100㎥を放流し水位を1・42m下げた。
「100年に一度」上回る雨量
雨量が増えてきたのは12日午前6時頃だった。ダムへの流入量が増加し、毎秒100㎥の放流を続けているにも関わらず水位は上昇。午後7時頃になると流入量が一気に増え、午後8時20分には毎秒1880㎥の最大流入量を記録した。「宮ヶ瀬ダムは『100年に一度の大雨』を想定して毎秒1700㎥の最大流入量で計画されていましたが、それを超える量。ここまでの雨は経験がありません」と松若課長は緊張の瞬間を振り返る。洪水の恐れから、午後9時には緊急放流の可能性も発表した。
しかし、最大流入量を記録した直後から、ダムへの流入量が急激に減少に転じた。上流河川からの水や地下水などがあるため水位は上昇を続けていたが、上昇ペースが緩やかになり緊急放流は回避できた。松若課長は「台風が通過後すぐに雨がやんでくれたのが良かった。雨が続いていたら危険でした」と話す。
水位上昇は10・36m。貯水位は284・44mに達し、満水まであと1・56mまで迫っていた。事前放流で水位を下げていたことも「効果があった」と松若課長は分析する。
かつて洪水被害が多かった中津川。2000年に宮ヶ瀬ダムが完成してから治水能力は格段に向上した。台風19号では、2日間雨量と毎秒最大流入量がダムの計画を上回ったが、治水能力の高さを証明した。しかし、自然災害は年々激しさを増している。松若課長は「災害がさらに激しくなれば、現状の運用ルールでは対応が難しくなってくることも予想されます」と表情を引き締める。生活に欠かせない水は、ひとたび牙をむくと甚大な被害を生む。水の管理人たちは、今日も湖面を見つめ続ける。
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