紛争地帯で活動する「国境なき医師団」のメンバーに、厚木出身の看護師がいる。佐藤太一郎さん(37)は、今年1月から4月までスーダンで人道支援に携わった。一時帰国を経て、今月下旬に7度目となる派遣先のアフリカ南部のエスワティニ王国(旧スワジランド)に向かう。
スーダンは国内紛争が重なり混迷している。5人チームで派遣された病院は、多くの医療機材が壊れたり盗まれるなどして機能が失われていた。佐藤さんの任務は薬や器材などモノの流れを調整し、人材を採用して育成する、病院再起動のマネジメント。計画を進める中では予期せぬ出来事も連続した。麻疹や肝炎が流行し、退院した患者は暮らしていた地が危険で帰れない。夜は人々が安全な場所を求めて病院に集まった。根本原因の紛争は止められない。
母校は愛甲小学校と東名中学校。長谷スポーツ少年団で野球を続け、高校時代にプレー後の仲間のケガを処置するうち、医療の道に興味がわいた。東海大に進学、卒業後に救急医療センターなどで働いた。その後海外留学を経て客船の乗客をケアする看護師として就職。2020年にダイヤモンドプリンセス号で新型コロナの感染が広がり、救命活動の依頼を受け帰国することに。どんな感染症か分からない状況で奔走した。
同年に国境なき医師団に入った。志望したのは医師団の活動に共感したから。天災ではなく暴力や紛争などの人災で人々が死ぬことに、強い理不尽さを感じていたという。これまでイラクやパレスチナ、イエメン、ハイチ、チャドに派遣されている。輸血や薬の量がわずかで、どの患者に使うか決断を迫られたり、紛争で難民が1日5千人増える現場もあった。
派遣前には現地状況やリスクの説明、意思確認などが十分に行われるせいか、漠然とした恐怖はないという。「自分の経験と知識で人の命を守りたい、そこに医療ニーズがあって、できることがあるから行くんです」。
派遣期間が終わった後は「電池が空っぽの状態」で厚木に帰る。派遣先では食べられないすしを食べ、本厚木駅から一番街を通って自宅まで歩く。平らに舗装されている道路、夜も明々と開いているコンビニを見て、あらためて驚く。「もともと地元愛はあまり意識していなかったのですが、帰れる場所があるのは幸せなこと。地元厚木のためにどんな貢献ができるか考えています」と語った。
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