全国的な里山の減少や外来種の影響を受け、地域の生態系が崩れつつある。多様な生物が生息している三浦半島も同じ状況で、渡り鳥のサシバやトウキョウダルマガエルなど絶滅してしまった生き物も少なくない。生物多様性の衰退は、生態系に依存している人間の暮らしにも影響を与えることは自明の理だ。三浦半島の農の在り方を見直しながら、生態系の保全に取り組む活動を精力的に行っている「NPO法人 三浦半島生物多様性保全」の天白牧夫代表に、職場実習で訪れた長沢中2年生の3人と話を聞いた。
「里山とは、適度に人の手が入り伝統的な農業が営まれてきた空間です。三浦半島の特徴の一つである谷戸田も含めて消失が続いています」と天白さん。都市開発や農業の担い手不足などが背景にあり、生物にとっても棲みにくい環境となっている。一部の種では、地域絶滅が起きているという。
例えば、トウキョウサンシュウウオは自然豊かな湿地に繁殖するが、県内では横須賀市と葉山町のみに自然分布。山中と呼ばれる谷戸では、県道久里浜田浦線の延伸やY-HEART計画の行方次第で谷そのものが失われる危険性をはらんでいる。
では、人の手によって維持される里山がなぜ必要なのか? 原生林のままで自然を守ることはできないのか? 天白さんによれば草や樹木が繁茂すると日照条件が悪化し、森林生態系のバランスが崩れてしまうという。人の営みによって連綿と受け継がれてきた里山は、人と生物が共存できるまさに理想の空間なのだ。
天白さんのNPO法人では、生態系を守る実践の場として、谷戸の休耕田やカヤ場などを所有者から借り受け、復田(復元)に取り組んでいる。現在、横須賀市に11カ所、葉山町に2カ所あり、自然生態系に負荷のかけない農法で、土地本来の植生や生物を呼び戻すことをめざしている。子どもたちを対象にした体験プログラムやエコツアーも実施。生物多様性を守る担い手の育成にも力を入れている。
■NPO法人 三浦半島生物多様性保全/横須賀市阿部倉9の3/【電話】046・853・7275
「経済にも里山的発想を」
生物多様性保全を実現する空間として里山の有用性を説く天白さんに対して、経済活動に「里山的」発想を取り入れることを推進しているのが前市長の吉田雄人さん=写真。「里山資本主義」の言葉とともに、地方創生につながる活動の支援を自身が所属する団体「Satoyama推進コンソーシアム」を通じて行っている。
吉田さんによれば、「里山資本主義」の反対にあるのが「マネー資本主義」。お金に主眼を置いた経済から少し距離を置き、自然や人間関係などを大切にしながら身近な地域資源に新たな価値を吹き込んでいく発想の転換だという。
ミカン栽培が盛んな山口県周防大島の1人の移住者がジャムの生産と販売を始めると瞬く間に人気となった。これに呼応した人が、ジャムに合うパンを作ろうと、小麦畑を設けた。高齢化と人口減少が進む田舎町で起こった新しい経済の価値化が生まれた好例を例示した。
「自分の事として暮らしの中にそうした発想を1%でも持ってもらいたい」。吉田さんはそう話した。
横須賀・三浦版のローカルニュース最新6件
|
|
|
|
|
|