【Web限定記事】コロナの今、その先―〈医療〉 第2波に備え、日常生活に感染予防を 遠藤千洋氏(横須賀市医師会会長)
新型コロナウイルス感染拡大・外出自粛の影響は多分野に渡っています。「今」の動きと「これから」を各界の関係者に聞きました。
――横須賀の医療現場では感染が広がった当初、どのような対応をされていましたか。情報収集や感染予防で苦慮されていることはありますか。
「新型コロナ感染は全国では収束に向かっているが、横須賀市では5月23日時点で53人の感染者が報告され、現在も断続的に感染者が発生している。緊急事態宣言が解除された後も気を緩めることなく、感染予防を心がけていくことが大切だと考えている。3月中旬、横須賀で初めての新型コロナ感染患者が発生した頃、各医療機関が対応に苦慮した点は、感染の初期症状が風邪やインフルエンザと区別がつかないことだった。感染者が来院した場合、一般の患者や医師、職員への感染をいかに防ぐか、これも困難な問題だった。医師会では、市民に対して『発熱してもすぐに病院を受診せずにしばらく経過をみること』と『受診前に電話して指示を受けるよう』お願いし、医療機関には、対面でのマスクをはずさない診察や発熱者用の待合スペースを別に設けるなど、濃厚接触を避ける対策を周知している」
――現在のところ、医療施設などでマスクやガウンなど感染防止物品の補充状況はどうですか。
「サージカルマスク等の感染防具の不足は、現在も改善されていない。特に重症中等症患者を扱う重点医療機関では、手作りのマスクやガウンを調達するなど状況は深刻だ。その一方で、各方面から市などを通じて、マスクやフェイスシールドなど多数の寄付を医師会にいただき、心より感謝している」
――4月下旬、県内でいち早くPCR検査場を設置されました。この判断や経緯、現在の様子はどうですか。
「新型コロナ感染の唯一の診断法であるPCR検査は、保健所の相談センターを通す現在のシステムではハードルが高く検査件数が増えない。感染が拡大する中、当医師会ではPCR検査数の増加を目的として、日中空いている新港町の救急医療センターを使用したPCR検査場の設置を検討。市と協議を重ねた結果、4月24日に県内では最も早くPCRセンターを救急医療センター駐車場に開設した。ボックス型検査ブースを2台備えたウォークスルー方式を採用し、1日最大60件の検査が可能。県や市から資材や人員、資金を提供していただき、何より37の医療機関の参加が得られたことが開設につながった。5月21日からは保健所相談センターを通さず、医療機関から直接に検査依頼が可能となった。5月23日まで新規の検査数は406件、陽性者数は9人、陽性率は2・2%。1日平均の検査数は18・5件となっている。PCR検査を一カ所に集約したことで、市内3病院の帰国者接触者外来の負担が軽減でき、その分感染者の治療に専念する体制が作られ、院内感染のリスクも下げられた」
――医療関係者に向けて、感謝やエールと共に差別の声も聞かれます。
「医療現場の最前線で、命がけで新型コロナウィルスと戦っている医療従事者の皆さんには、本当に頭の下がる思いだ。院内感染を生じないためにも感染防具の充実は不可欠であり、医師会として全面的に支援するつもりだ。医療従事者の激務による疲弊を防ぐための宿泊施設は、各病院で用意していると聞いている。残念ながら、新型コロナ治療に関わる医療従事者への偏見、差別の事例は後を絶たない。保育園の利用を拒否された、美容院の入店を断られた、子どもが学校でいじめを受けた、夫が濃厚接触者扱いされて自宅待機を命じられた…など、いわれのない差別を受けることが多いと聞いている。県医師会でもこれを指摘して、県民に向けて冷静な行動をするよう呼び掛けている」
――感染予防のため、慢性疾患の受診や乳幼児の予防接種などでの来院を控える動きがあるようですが。
「感染を恐れた病院受診の手控えも顕著だ。特に小児科では、患者数が大幅に減少している。予防接種を控えるケースも多い中で、特に問題なのはBCG。横須賀では、これまでBCGは保健所の集団接種で行ってきたため、現在は完全に中断している状況。医師会では保健所と協力して、個別の医療機関でのBCG接種を開始する予定だ。さらに、定期の予防接種を受けていないと、新型コロナ以外の感染症にかかる危険が高まってしまう。また、小児喘息などの慢性疾患の患者も受診を控え、薬の服用も滞っている。これは、内科に通院する大人の慢性疾患の人も同様だ。各医療機関では充分な新型コロナ感染対策を行っているので、過剰な心配をせず、予防接種や乳児健診、診療を受けてほしい」
――オンライン診療など在宅での医療支援の取り組みについて、今後の展望は。
「在宅患者が濃厚接触者またはPCR検査陽性となった場合、かかりつけ医は対応に難しい判断を迫られる。4月に在宅医を対象に実施したアンケートでは、半数以上が在宅診療を行わず、電話などで対応しているとの結果であった。診療を続けると返答した医師からは、マスクやガウンなど感染防具不足の訴えが多く出されている。医師会では在宅におけるオンライン診療の充実と、感染拡大時の在宅医療のシステム作りを検討していきたいと考えている」
――医師会として、正しい情報の収集や感染防止の生活習慣の呼びかけをお願いします。
「新たな感染者は減っているが、ウイルスの根絶はできていない。皆さんが油断をしていると、秋口には新型コロナ感染の第2波が起こる危険性もあり、今後毎年新型コロナ感染が繰り返される可能性も指摘されている。手洗いを励行し、人混みを避け、密集する場所ではマスクを着用する習慣を日常生活に取り入れてほしい。いずれワクチンが開発され、治療法が確立されれば、新型コロナ感染症はインフルエンザと同程度の恐れるに足りない疾患になると思っている」
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