温度や湿度、音などで人の動きを感知するセンサーを室内に設置することで、1人暮らしの高齢者の安否が確認できる「見守りシステム」が7月末に実用化された。開発に携わったのは、鴨居にある小磯診療所の磯崎哲男理事長。東京海洋大学、(株)企画と連携し、3年間の実証実験を経て完成させたもの。今後、在宅医療の利用者宅や病院、介護施設など、さまざまな現場での活用に期待される。
「Ribbon(リボン)」と名付けられた同製品。使い方は約12・5cm四方の機器を高齢者宅の玄関や寝室、リビングなどの高所に設置し、電源コードを差し込むだけ。赤外線センサーで動きを検知し、温度、湿度、音、照度を秒単位で測定したデータを1時間ごとにグラフ化することで、居住者の動きや冷暖房がついているかなどが「見える化」できる仕組みだ。
アプリのインストールは不要。家族や訪問医療スタッフなどがスマートフォンやパソコンで専用サイトにアクセスし、個人パスワードを入力すれば、対象者の状況が確認できる。遠隔地から何人でも閲覧できるほか、見守る人たちの間で情報交換に役立つチャット機能も備えた。機器本体は3万円(税別)、ランニングコストは1日70〜80円程度となっている。
実証実験に3年
東京海洋大学では2011年3月に発生した東日本大震災に伴い、関東地方で実施された計画停電をきっかけに、電力センサーを活用した研究に取り組んできた。家電製品の種類ごとに測定したデータをもとに、各家庭の生活パターンが分かる技術を導き出し、これを高齢者の見守りに応用しようと検討していた。
そこで3年前、開発の協力者として声が掛かったのが、25年以上にわたって在宅医療の現場に身を置いている磯崎理事長だった。420人の患者の中から20人に承諾を得て、実証実験を展開。防犯カメラとは違うため、設置に抵抗する人は少なかったという。設定や閲覧を簡単にできるように、同大とプログラムや機器製作を担当する(株)企画と微調整を重ねてようやく完成させた。磯崎理事長は「確実に命を救うシステムではないが危険を減らすことはできる。不安を安心に変えるツールとして世の中に広がっていけば」と話す。
不動産業界も注目
高齢化が進む中、独居老人も増加傾向にある。不動産オーナーは、近隣に家族がいない高齢者1人だけでは体調の異変に気づかれにくいため、亡くなってしまうリスクが高いと感じて、賃貸契約に結びつきにくいことが課題となっている。
今回開発された「Ribbon」には、不動産業界に向けたサービスもある。その日のデータは翌日に物件所有者や家族などに届けられるが、全く動きがないなど危険と判断された場合は緊急メールで通知される。
これに注目したのが、久里浜に本社を構える臼井不動産(株)。社員たちは8月中に機器の使用方法を学び、9月から賃貸物件を持っている人などを中心に設置を提案していくという。臼井達也社長は「センサー付きなので物件の価値も需要も高まり、高齢者1人でも入居できる場合なども想定される」と期待を込める。
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