県営かもめ団地の向かいにある「小磯薬局」(鴨居2の78の11)。白衣に身を包んで背筋をピンと伸ばし、若手スタッフに混ざって矍鑠(かくしゃく)として働く磯崎貞夫さん。御年89歳の現役薬剤師だ。この道一筋60余年。仕事、トレーニング、趣味にアクティブな自らの身をもって、同じく薬剤師で妻の瑛子さん(87)とともに患者の健康意識の醸成やQOL(生活の質)の向上に注力している。「あと5年は頑張りたいね」。意欲みなぎる言葉は、今年卒寿を迎えるとは感じさせない。
「人から見られている」が張り
1933(昭和8)年生まれ。思春期は戦後の希望と不安定な社会情勢が入り混じった「戦後混乱期」と呼ばれる時代を過ごした。薬剤師を志したのも高校生の頃。「医療は(職業として)安定していると思った」。たとえ、混沌とした世の中であっても人間が生きていく上で健康や病気は切っても切り離せないだろう--という堅実な理由だった。
大学卒業後は東大病院や東京逓信病院などで薬物動態学の研究職に就いた。国内留学として他の大学病院でも研さんを積み、キャリアアップ。「恵まれた環境で学ぶことができた」
定年まで勤め上げたあとは、瑛子さんが開業した調剤薬局で今日に至るまで夫婦揃って患者の対応にあたっている。研究職から地域密着の”かかりつけ薬剤師”へ。処方箋に基づく調剤、正確な服薬指導、薬歴管理、健康相談、個々の状態や生活環境を踏まえたアフターフォローまで幅が広がり、同じ職種でも働き方はがらりと変わったが、「目の前の患者が元気になることにやりがいを感じる」と笑顔を見せる。「妻の仕事を見て、近所の子が薬学部に進学したと聞いた時は、この仕事の価値に気づいてもらえたのだと嬉しかった」。系列店は市内にとどまらず、今や都内や横浜に6カ所ある。
運動で筋力アップ
ハツラツと過ごすための秘訣はいくつかある。
まずは身体を動かすこと。3年ほど前、百貨店へ買い物に出掛けた際、派手に転倒。「打ち所が悪ければ命の危険にもつながる」と、それまで縁遠かった運動を始めた。1回1時間半を週2日、夫婦でパーソナルジムトレーナーの指導を受けるほか、簡単な筋力トレーニングを毎日コツコツ継続。いつしか何もつかまらずにスッと立ち上がれ、片足立ちでズボンを履けるまでになった。
ウォーキングも日課で、近距離なら徒歩移動もいとわない。「観音崎公園まで歩いたり、近所の坂道も筋肉に負荷がかかってちょうど良い」
日々店頭に立つということは、すなわち「いつも人から見られている」ということ。医者の不養生ならぬ、”薬剤師の不養生”と言われぬよう、指導する側も健康でいなければ「説得力がないでしょう?」と冗談めかす。薬局の目と鼻の先ににある小磯診療所の院長を務める甥とも、よくそんな話をするという。
そして、もうひとつ欠かせないが食事。減塩を徹底する以外は好き嫌いなく何でもよく食べ、時には孫世代の若いスタッフと一緒に焼き肉を囲むことも。「休みなく働き、今もなお勉強し続ける意欲にも尊敬する」と周囲は舌を巻く。患者には薬と元気を、後進には刺激を与える存在だ。
ITもお手の物
医療や医薬品の技術革新は日進月歩。それらを扱う薬剤師にも常に新たな知見や経験が求められ、「勉強をしないと追いつけないよ」と言葉を噛みしめる。生涯現役であるためには、生涯勉強でなければならない。「出来るなら95歳まで働きたい」
元来、新しもの好きな性分ということもあって腕にはスマートウォッチをつけ、スマホやLINEもお手の物。年齢を重ねてもなお心身ともに若々しく過ごすには、好奇心と探求心が必要だ。
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