三崎小学校で20年来、視覚障害に関する出張授業を行っている 抱井(かかい) 康夫さん 三浦市三崎在住 75歳
「こんにちは」の一言で
○…「授業をしてくれないか」。盲導犬を連れていたとき通りすがりの教員から不意に請われたのがきっかけだった。以来、三崎小への訪問授業を始めて20年。今では道端で子どもやかつての児童から声がかかる。「こんなに続くとは思わなかったけど交流は宝」と顔をほころばせる。
○…「危ない」。車を運転中、助手席の声で急ブレーキをかけるとあわや衝突しそうだった自転車が目の前にあった。赤信号が、視界に入っていなかった。「網膜色素変性症」。30歳のときそう診断された。それまで視覚障害者を認識こそすれ、当事者になるとは夢にも思わなかった。盲学校に入学すると同じ境遇の人がいることを知り、街を歩くと白杖の音にも気が付くように。同時に目が不自由な人にとってこの社会が別世界のように不寛容に感じた。
○…「私は『見える世界』にいるんです」。ぽつりとつぶやいた。横断歩道の音響ボタンは騒音になるからと夜間は消され、市役所にすら視覚障害者用の誘導ボタンが整備されない。”見える世界”はつまり、健常者のための社会と同義だ。人生の途中で視力を失ったから一層如実に感じるのかもしれない。障害者にやさしいまちづくりにバリアフリー、言葉だけの配慮が空虚に映った。
○…共に暮らす盲導犬「ウーゴ号」は3代目のパートナー。「今生活できているのはこいつのおかげ」と感謝が口をつく。健常者と障害者の乖離を埋めるには―。その解を導くのは容易ではないかもしれない。ただ、できることはある。「まずはあいさつでいい。声をかけてみて」。そこに誰かいても自分には気が付くことができない。でも、会話を交わせば交流が生まれる。きっかけはそんな小さな一歩から生まれると信じている。
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