浦賀の鏝絵(こてえ)特別展 左官の腕、彫刻で魅せる 浦賀行政センター2階で5月末まで
壁を塗る工具の鏝で絵を描いた漆喰(しっくい)彫刻「鏝絵(こてえ)」の特別展が、浦賀行政センターで開かれている。制作したのは、西浦賀在住の現役の左官職人、辰巳忠志さん(67)。飛び出さんばかりに迫ってくる龍や唐獅子、山肌が染まり立体感のある「赤富士」など数点が並び、訪れた人の目を釘付けにしている。展示期間は5月末まで。辰巳さんを講師に鏝絵づくりに挑戦する講座も企画されている。
幕末から明治にかけて、浦賀には漆喰壁を塗る左官職人が数多く暮らしていたとされる。中でも漆喰細工の名人として全国的にも有名なのが石川善吉だ。その作品は、西叶神社の装飾壁や、八雲神社の「向拝の竜」など、今でも多くの神社で見ることができる。
辰巳さんが40年以上前に鏝絵を教わったのが、石川善吉の息子の故・石川梅尾氏だ。19歳のときに高知県から浦賀に引っ越し、左官職人としては当時まだ駆け出しだった辰巳さん。盆栽好きという共通の趣味から梅尾氏と知り合い、教わるようになったという。
しかし、それから1年ほどで梅尾氏が他界。辰巳さんは作品を完成することなく、鏝絵から遠ざかった。再開したのは、一昨年の12月のこと。昭和34年に梅尾氏が川間町内会館(西浦賀)の2階軒下に完成させた「鳳凰」の鏝絵が時間の経過で色あせたため、町内会から修理を頼まれたのがきっかけだった。「まずは自分の作品を創れるようになってから」と、芸術のために鏝を再び手にしたという。
まるで生き物
鏝絵制作の手順は、石こうで下地を作るところから始まる。生き物や自然などの描く対象を、ある程度形にしてから漆喰を盛る。龍の鱗や口元のような細かい部分は鏝やハケを使って描き、立体感を演出。形が崩れないように、下地にステンレスを埋め込むという。1週間程寝かせると固まるため、その後、水彩絵の具や金粉などで色付けして仕上げる。
1ヵ月以上かけて完成した『昇り龍』。金粉と漆で色づけされた鋭い眼光が、今にも飛び出してきそうな印象を与える。「口元が一番苦労しました」と話す通り、歯の1本ずつまで繊細に描かれている。作品は1メートル四方で、約40キロの重さがある。「2つと同じものがつくれない」ことが鏝絵の何よりの魅力だ。
「作品展を開催できる県内唯一の鏝絵彫刻家」を自任する辰巳さん。かつての師匠が手掛けた川間町内会館の漆喰の修理を頼まれたことに運命的なつながりを感じながらも、「まずは、もう10作品完成させる」ことが当面の目標だそう。
その一方で、辰巳さんは現役の左官職人。「地震で壊れた壁の修理で仕事が増えました」とも話す。忙しい合間を縫って創り上げるオリジナリティあふれる辰巳さんの”芸術”に今後も目が離せない。
この鏝絵特別展に関する問合せは浦賀行政センター【電話】046(841)4155まで。
鏝絵教室も開催
浦賀コミュニティセンター分館では5月21日から6月18日までの毎週土曜日に、「鏝絵を学ぶ」講座を開講する(全5回)。時間は各回午前9時から正午まで。初回は浦賀の鏝絵めぐりをし、翌週から辰巳さんを講師に「赤富士」創りに挑戦する。
対象は18歳以上で、定員20人(抽選)。参加費は2000円。希望者は往復はがきに【1】講座名【2】氏名(フリガナ)【3】年齢【4】住所【5】電話番号を、返信面にも住所・氏名を明記し、〒239-0822浦賀7-2-1浦賀コミュニティセンター分館まで。5月6日(金)必着。問合せは同分館【電話】046(842)4121まで。
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