最初期のコロボックル物語の復刻版と新作短編を刊行した児童文学作家 佐藤 さとるさん 逸見出身 85歳
壮大な嘘がファンタジー
○…一世を風靡した児童文学作品・コロボックル物語の作者。85歳の誕生日を記念して自身最初期の私家版を復刻した。10年以上ぶりという新作の短編小説も書き下ろし、番外編として添えた。「復刻本とそれを収めるケースのサイズが合わなくてスカスカ。埋めるためにもう一編加える必要があった」と冗談めいて話すが、筆を執りたくなるほどの秀逸なエピソードが作家魂に火をつけた。
○…それは『ガリバー物語』のガリバーが観音崎を訪れていた、とする説だ。興味がわいて調べを進めるとガリバーは江戸時代、逸見に領地を持った三浦按針ことウィリアム・アダムスにも通じた。「按針の墓のある塚山公園は幼少期に駆け巡った思い出の地」。身近に感じていた按針をガリバーに見立てて、自身が産み落としたコロボックルと邂逅する物語を思いついた。寓話の中で真実の歴史が少しだけ顔を出す手法はもっとも得意とするところ。「レンガを少しずつずらしてアーチを造る感覚。壮大な嘘をつくことがファンタジー」とにんまり笑う。
○…よどみなく半世紀以上も前の記憶が口をついて出る。「日本のフェアリーテイラーになってやろうと思って」。出版社に勤務していた30歳当時。大好きな童話を読み漁っていたら、身の回りになくなってしまった。「ならば自分で作るしかない」。5章をじっくりとかけ上げて、あらためて読み返してみると「面白すぎて止まらない。すごいものが出来た」とひとり悦に入った。枕元に積み上げて満足感に浸った100部の私家版がその後の作家活動の原点となった。
○…児童文学ほど奥深いものはないという。「子ども向けの本ではなく、子どもにもわかるように書かれた大人の本」というのが持論だが、「容易でないからもう書かない」ときっぱり。最後の執筆は家族に懇願されている「自分史」。世の中と自分の価値観が大きく変わる節目となった昭和20年の記憶を今、編んでいる。
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