日本を代表する解剖学者でアナトミーアート手掛けるアーティスト 横地 千仭(よこち ちひろ)さん 神奈川歯科大学名誉教授 99歳
生も死もユーモラスに
○…煙草をくゆらせる人の顔の造形物。首元には死者の使いであるアマガエルがその様子をじっと眺めている。2カ月前に完成させたという新作アートを「たばこ 社会に損出2兆円 医療・介護費や火災」のタイトルの新聞記事と一緒に並べて説明をはじめたら止まらない。「作品名は『ケラケラ』。煙草は健康面だけでなく、社会全体に様々な影響を与えることを風刺した。禁煙の啓発に使えないかな」。10月で100歳を迎えるアーティスト。創作意欲は衰えない。
○…半世紀以上にわたって人体を研究してきた解剖学の権威だ。世界23カ国語に翻訳された著者「解剖学カラーアトラス」は国内で10万部、世界で300万部以上が発行されるなど医療界のバイブルとなっている。神奈川歯科大学の資料館には自身の研究成果である実物の人体標本の展示室があり、後進の医療従事者の育成に大きな貢献を果たしている。
○…医師として現役を退いてからは解剖学の視点や要素を取り入れた芸術「アナトミーアート」に精力を注いできた。ユニークかつオリジナリティーにあふれる着眼点が独特。「口からトランプを出している骸骨」「頭蓋骨に描かれた世界地図」など一見、不謹慎にも思えるが、「生と死は表裏一体。生をユーモラスに語るのであれば、死もユーモラスに語ることができる」という独自の死生観が主題となっている。
○…本や新聞を毎日手に取り、常に興味関心のアンテナを張っている。東京五輪の正式種目となったボルダリング。突起物に手を掛けながら頂点をめざすこのスポーツが人の一生に重なって見えたという。着想はふとした日常の場面から。「立っている足元は99歳。今100歳に手をかけている」。自分をモチーフにした作品はもうすぐ完成する。
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