佐原交差点から北久里浜方面へ100mちょっと歩くと「当店こだわりチーズケーキ」と書かれた黄色いのぼりが、1本はためく。その先の民家には「みっちゃんの手作りチーズケーキ」という看板。昨年5月にオープンした持ち帰り専門店だ。その店主は熊木美千代さん(81)。開業から約1年。「何度食べても飽きない」と評判を呼んでいる。
80歳で起業、動機は「お裾分け」
初めてチーズケーキを焼いたのは約10年前、70歳ごろ。年の離れた妹から手作りのチーズケーキが送られてきた。「(チーズ独特の)クセがなくてとてもおいしかったの」。レシピを貰い、我流で焼いてみたのが事の始まりだ。食べ歩きするような「ケーキ好き」でもなく、子どものためお菓子作りに勤しむ…といった経験もなかったが、「その1回が、まずまずの出来上がりだった」と振り返る。これに火が付き「もっとおいしく作りたい」と1日に何回か焼いて材料の配分などをアレンジしながら、「自分のレシピ」に固めていった。出来上がると、自分が妹に貰ったように、周囲に”お裾分け”したくなるもの。冷凍して地方の親戚に送ると、方々から喜んでもらえた。「お店でもやったら?」と言われたこともあった。
そんなある日、時間繋ぎで手持ち無沙汰になり、偶然目に入った手相診断の店へ。「ずいぶん料理をする手。(それを)仕事にしなさい」と勧められた。冗談半分で聞き流していたが、いつしか「(チーズケーキが)好きな人に食べてもらいたい」という想いも募っていた。
「お店にする」というイメージが膨らんだのは、地元町内会の広報紙がきっかけ。商工会議所の起業支援広告を見つけ、相談に赴いた。保健所への登録や衛生管理、店舗となる自宅スペースの改造など、立ち上げ支援を受けた。
「身の丈」で続けたい
昨年5月にオープンしたものの、コロナ禍もあり材料調達も思うようにできなかった。落ち着いたのは夏になってから。今は、冷蔵・冷凍のストックを見ながら毎日焼いている。多い日はオーブンを3回転、12台作ることも。焼き加減を見ながらオーブンに付きっきり。合間に取り置きや予約の電話を受ける。「2人の息子からは、身体を悪くするほど頑張らないでと言われているの。仕事は私一人。気張らず身の丈で」と微笑んだ。
子どもに手がかからなくなってから、販売などの仕事を続け、60歳で定年退職した。その後はウクレレやハーモニカなど趣味の世界に没頭。市内のビデオクラブサークルに参加し、風景などの動画撮影と制作も楽しんでいた。当時のDVD作品は引き出しにずらり。活動での人とのつながりや楽しみも大きな財産だ。そして1台のチーズケーキが、人生に違う”色”をもたらしてくれた。
商品は5号(15cm/1620円)のみ。「私自身、10年近く食べていても飽きない」と自慢のレシピだ。店名はいくつか候補があったが「ギャップが良い」と言われ、恥ずかしいとも思ったが”みっちゃん”と名付けた。
遠い沖縄で暮らす孫も「ばあばのチーズケーキ」が大好き。店先の「のぼり旗」は次男からのプレゼントだ。お店を始めて家族や周囲との関わりが増えた。「この歳でいろんな人と話をしたり、元気をもらえるのは幸せ」。感謝と温かい想いを込めて、今日も調理台に立つ。
【店舗情報】佐原1の1の20/午前10時30分から午後5時/不定休/【電話】046・834・0744
横須賀・三浦版のローカルニュース最新6件
|
|
|
|
|
|