"海の隼"をあるく 〜按針が見たニッポン〜28 関ケ原編(5)作・藤野浩章
「的は味方の頭越し、半リーグ(約二千五百m)先です」(第三章)
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ついに放たれたアダムスの大砲。しかし、標的は笹尾山だった。そう、小早川ではなく、三成の本陣だったのである。当然、三成陣営はパニック状態になり、明らかに戦況に変化が表れた。それを見た家康は、次の指令をアダムスに下した。「次はあっちじゃ。金吾(きんご)に思い知らせてくれるわ」。金吾とは小早川秀秋のこと。ここでようやく「問(とい)大砲」が登場するというわけだ。
仮に"問鉄砲"があったとしても、いきなり味方に撃ち込むことはあるのだろうか・・・そんな雑な物の運び方はあるか?というのは筆者も長年疑問に感じていたことだった。兵士の一挙手一投足、一つの武器の動きはすべて陣営の意思だから、そこに誤解が生じる事は時として命取りになると思うからだ。
そういう観点では、作者の大島が採った"まず西軍に撃ってから小早川に出陣を促す"方法は理にかなっているように思える。何より、家康らしい。
その効果は絶大だった。催促に応じた小早川が大谷軍を襲い、あっという間に世紀の合戦は幕を閉じることになる。
しかしアダムスは大勝利の後で思わぬ知らせに接する事になる。遅参した秀忠軍に加わっていたヘルツゾーンが、上田における真田との戦いで亡くなったというのだ。
「オランダで死にたかった・・・それが最期の言葉でした」──傭兵(ようへい)としての役割を終え、アダムスらに帰国の希望がようやく見えた途端に接した訃報だった。
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