OGURIをあるく 〜小栗上野介をめぐる旅〜第12回 対馬編【6】文・写真 藤野浩章
「この船はおよそ二千二、三百トン、四百馬力、大砲は十門から十二門、乗組員は二百五十人ほどと見たが......」(第一章)
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芋崎(いもさき)浜からの眺めは本当に美しかった。対馬を形作るリアス式海岸のほんの1ピースだが、こんもりと突き出した緑は濃く、海の色は繊細なブルー。しばらくぼーっと眺めていたが、視線の先に全長60mもある黒い軍艦が停泊していたら、それはそれは異様な光景だったろう。
早速ポサドニク号に乗り込んだ小栗は冒頭の推測を伝え、艦長のビリレフを驚かせている。これはもちろん、人並み外れた知識欲とアメリカでの詳細な視察のおかげだ。
本書には彼の交渉の過程が詳しく描かれているが、たった14日間滞在しただけで対馬を後にしている。解決には最終的に数カ月かかっているから、こんな短時間で匙(さじ)を投げてしまったという評価も見受けられる。しかし彼は、対馬藩に領土の租借を求めるビリレフは海軍の下っ端に過ぎず、本来の交渉相手でない事を見抜いていた。そもそもこの交渉は対馬藩では手に負えない事態。だからこそ、ここを幕府直轄地とする「上地(あげち)」により、幕府の責任で安全保障の交渉を進めるべきと確信する。そうなれば対馬に留まる理由はないのだ。
切迫する状況の中、急ぎ江戸へ帰る小栗。しかし、それが思わぬ事態を招くことになる。
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ところで、本書が原作のNHKドラマ「またも辞めたか亭主殿」(主演・岸谷五朗)の再放送があるようだ。次回は横須賀市内に再現された巨大ドックのセットなど、ドラマ制作当時の記憶を掘り起こしてみる。
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