句集「群青の灘」を上梓した 中澤 靜惠さん 下宮田在住 87歳
17音でつづる日々の哀歓
○…五・七・五で情景を切り取る俳句。世界最小の定型詩とも呼ばれる17音の世界に魅せられ、言葉をつづってきた。心情は「他愛ないことでも、見えたもの思ったことを正直に」。たとえば花がきれいに咲く姿、霧が晴れていく様子。何気ない日常の瞬間が琴線に触れたとき、詩が生まれるという。このほど上梓した3冊目となる句集、その主題「群青の灘」も日常的に自宅から望む相模湾と富士山に着想を得た。
○…「70の手習いに」。当初はかつて母が詠んだ句に添える俳画を習い始めたが、いつしか詩の自作を勧められて創作するようになった。ルールはあっても表現に正解はない。それまでつけていた日記も備忘録として書き連ねる文字に味気無さを感じ、すべて俳句で残すことにしたという。過ぎし日の1句1句が思い出。「読み返すとその当時を思い出し、戻れるの」
○…大切にする“日常”は、家族の存在なしに語ることはできない。若くしてこの世を去った次男、数年前に相次いで急逝した夫と長男。言い尽くせない喪失感を埋めるため、行き場のない悲哀や葛藤を詩に込めたこともあった。一方で、8年ほど前にひ孫が誕生。今では5人のひ孫の曾祖母となり、脈々と継がれる命の成長が何よりの喜びだ。「句集といえど、いわば家族日記」。部屋の一角にところ狭しと並んだ記念写真に慈愛の目を注ぎ、微笑んだ。
○…2008年に第1句集を刊行して10年。米寿を前にこの3句集をひとつの区切りと考えている。「次はこれまでの批評をまとめ、推敲(すいこう)してみたい」と、さらなる意欲を語る。「冬ぬくし 俳句続けよ 子の遺言」。これからも心の支えは、家族と俳句であることに変わりはない。歩んだ人生をたどるかのように感慨深げに頁をめくった。