畑と木々に囲まれた金田の小屋にある穴窯を守る人たちがいる。陶芸愛好家が集う夢野頓坊農場窯、通称「夢窯」の共同代表の一人を務める田中史郎さん(75)は、年に一度、5昼夜かけて焼き上げる"土味"のある素朴であたたかな風合いをまとった陶器に魅了され、6年ほど前に鎌倉から海外町に移住した。
レンガ造りの穴窯を構えたのは、物理教諭として旧三崎高校などの教鞭に立った黒田千里さん。大工仕事が趣味の田中さんは、知人の誘いで窯焚きの手伝いに訪れた際、初めて黒田さんと出会った。「飄々としていてマイペース。汚れた作業着のまま海外に行くほど見た目に頓着はなく、あるのは好奇心だけだった」
もともと凝り性な気質だった田中さんは、クセのある複雑な焼き方で手間の掛かる工程の奥深さに、どっぷりと浸っていった。最大の楽しみであり、苦しみでもある作品づくり。体で分かってくるには時を要した。
振り返ると黒田さんはあまり多くを語らない人でもあった。「私の作品を手に取って『重い』とただ一言。あとは自分で考えて直すしかなかった。だからこそ面白かった」と回想にふける。
「見て覚えて、触ってなんぼ。来る者拒まず、去る者追わず」。そんな黒田さんを慕い、遺志を継いだ50人以上が、今も自身の内面と向き合う。
「黒田先生は一人で、どんな苦労をしてきたのか。いつも聞きたいけれど、もう叶わない」
里山の原風景のようなここには揺るぎない静けさと情熱が溢れていた。
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