東日本大震災時の支援に感謝を込めた演奏会を毎年開いているシンガーソング・ライター 秦 万里子さん 鵠沼花沢町在住 61歳
等身大の思い、歌にのせ
○…災害復旧が進む一方で、支援してくれた海外への対応が遅れている――。新聞に載っていたそんな1文がきっかけだった。「音楽家の自分に何かできることはないか」。自問の末に辿り着いたのが、感謝の気持ちを歌に乗せること。震災と同年、米国出身のお笑い芸人と「Heroes 2011,Japan」を制作し、以来毎年3・11を前に、海外の人々に曲を届ける演奏会を続けている。
○…代名詞は「半径5mの日常を歌う音楽家」。家事や育児、介護。飾り立てず、主婦目線の日々をありのままに切り取った楽曲は、ときに笑いや涙を誘いながら聴衆の心をひきつける。「自分の役割は歌で皆を元気にすること。きれいごとが言いたい訳じゃない」。震災後、被災地に赴いた経験から手掛けた楽曲でもそのスタンスは貫いた。あえて被災者を励ます言葉を並べるのではなく、津波で子どもを失った人の悲しみや行き場のない憤りをそのまま歌に。当事者を代弁するかのような歌は多くの共感を集め、「やっと泣くことができた」。そんな声も寄せられた。
○…紆余曲折と形容するには余る波乱の人生を送ってきた。音大卒業後、米国の作曲家に弟子入りしようと渡米。帰国後30歳過ぎで結婚、双子を出産したが、娘が5歳のときに夫が蒸発。アスペルガー症候群を抱える娘を女手ひとつで育て上げながら、借金の返済や親の介護にも追われた。辛いときこそあった。だが、自らを不遇と憂いたことはない。「何が起きるか分からないのが人生。それにその経験がなかったら、今もなかったと思うから」
○…折しもこの3月はデビュー10周年の節目。思いの丈を問われると「あまり頓着がないの。周りに言われてようやく気が付いた」とからから笑う。ただ好きなことを生業にしてこられたことへの感謝は最近になって噛みしめている。音楽が自分にとってだけでなく、誰かを元気づけるものであれば歌い続けていくだけだ。これまでも、これからも。
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