東日本大震災、福島原発事故から10年が経過した今、福島で命を失った動物をテーマに制作を続ける画家が藤沢にいる。辻堂東海岸在住の山内若菜さん(43)。これまでに飯舘村を60回、浪江町を20回訪問し、牧場の馬や牛の姿を取材。4月10日まで「原爆の図 丸木美術館」(埼玉県)で個展を開いており、「亡くなった命を忘れず、事実を感じてもらいたい」と訴えている。
「歳月を経て色をつけ、生命の希望や理想を描けるようになった」。3月下旬、自宅兼アトリエで、個展に追加展示する作品「天空 昇(のぼる)」に向き合う山内さん。縦3・4m×横3・1mにもなるキャンバスは、水に浸し傷ついた皮膚のように破り幾重にも重ねた和紙だ。その上に墨や絵の具、オイルパステルで、不死鳥のモチーフに「生命の燃えるような赤色」を添えていく。
被災地を自分事に
震災後、避難区域が指定され、住民が避難する一方、馬や牛などの家畜が置き去りにされた。「大切な命が傷つけられている」と、悲しみから絵筆をとった。13年から現地で出会った牧場主のもとで仕事を手伝い、事故後に立てなくなり変死する馬や牛、牧場主の怒りや無力感に触れ、その姿を描いてきた。
「住民ではない自分が、被災地を描くことに葛藤もあった」。それでも筆を止めなかったのは、現地の人々の声。2018年に福島で個展を開いた際、「旅人であるあなたにこそ、もっと絵で真実を伝えてほしい。当事者がこの問題を昇華するにはまだ生々しすぎる」と背中を押された。
一方、これまでの作品は、放射能の見えない不安を反映するような、暗い画面構成で母子や馬がモチーフ。横浜市や岡山県の中学校の芸術鑑賞会で作品を見せると「白黒の絵は当時を思い出してつらい」と生徒から率直な声が上がった。そこで昨年頃から作品に新たな命が宿すように、少しずつ色をつけていった。
現在、福島だけでなく、広島と長崎への原爆投下を主題にした作品にも意欲的に取り組んでいる。「被ばくの恐ろしさ、命の大切さをを多くの人に自分事としてとらえてもらいたい」。覚悟を持って創作を続ける。
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