東京パラリンピックを複雑な思いで見つめる人もいる。「大会で光が当たるのは、主に身体障害者。スポーツに関して知的障害の人たちが置かれている状況も多くの人に知ってほしい」。そう話すのは知的障害者のトランポリン教室を開催する(一社)善行大越スポーツクラブの理事・渋谷弥生さん。身体や知的など、障害の垣根を超えた環境整備の必要性を訴える。
8日、善行小学校体育館。競技用トランポリンの上で夢中になって跳ね続ける少年に「いいジャンプ」「そうそう、上手い」と絶え間なく明るい声援がかかる。
同クラブは総合型地域スポーツクラブとして2006年に発足。知的障害者の受け入れは10年前に始め、利用者は市内全域から幼児から成人まで約50人。リピート率は100%といい、キャンセル待ちのクラスもある。
人気の一方、運営面では課題も抱える。非営利活動の中でも障害者スポーツは赤字が常態化する傾向に。特に顕著なのが人件費で、成人の知的障害者には補助が複数名必要なこともあるが「利用者への負担を強いられない」と1回1500円ほどの利用料金を据え置く。渋谷さんは「一団体では限界がある。受け入れる団体が増えたり、行政の補助など、支援の輪が広がれば」と願う。
こうした課題の背景には、知的障害者のスポーツに対する社会的な理解不足がある。「障害者が利用できる施設や団体も、多くの場合想定しているのは身体障害。知的障害者の受け皿が圧倒的に足りない」と渋谷さん。市内でも養護学校以外で気軽に運動できる場所は限られ、年齢が上がるにつれ、場所が少なくなるのが実情という。
環境の改善にはこうした状況をより広く知ってもらう必要があるが、東京パラリンピックで知的障害者の参加枠は陸上、卓球、水泳の3種目にとどまる。「パラリンピック=身体障害者のためのスポーツというイメージが定着してしまわないか」。そんな懸念が頭をもたげる。
身体の障害と同じように、知的障害の中身も多様だ。個々に合わせサポートも細かく分かれ、重度の場合にはより丁寧なケアが求められる。
「運動は生きていくために不可欠。障害関係なく、誰でも思い切り体を動かせる環境が広がっていけば」。利用者の屈託ない笑顔を見つめ、願いを込めた。
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