高齢者を笑いで元気に。かくいう私たちも高齢者――。稲荷にある高齢者福祉施設を拠点に活動する落語サークル「やすらぎ落語塾」がこのほど1年ぶりに活動を再開した。新型コロナウイルスの影響で昨春から活動を自粛していたが、感染症対策を徹底した上で久しぶりの寄席が実現。会場には笑い声が響き、メンバーらも芸を披露できる喜びをかみ締めた。
「夏と言えば怪談。私が住んでいる善行団地の話です。…階段(怪談)が多い」
先月22日のやすらぎ荘広間。この日のトップバッターは元バスガイドの「人前亭アガール」さんで、地元ネタをふんだんに取り入れた漫談で笑いを誘った。
観客は定員30人で施設利用者に限定。感染症対策のため、客同士のスペースを十分に確保し、飛沫対策も徹底した。
長引くコロナ禍で観客にとってもイベントは久しぶり。この日は落語に色物など演目も多彩で、足を運んだ善行団地在住の女性(74)は「とても面白い。家に一人でいると気分が沈みがちだけど、皆さんと一緒に笑うと元気がでる」と喜ぶ。
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落語塾は同施設が主催した講座の受講生を中心に2016年に発足。現在メンバーは60〜70代の男女16人。毎月の定例会に加え、町内会や老人会への出張落語が人気で、コロナ禍前の公演は年間40回を超えた。
モットーは「自分も仲間も、お客も楽しく」。あえてプロに芸を教わるのではなく、自分たちで意見やアドバイスを出し合い、芸を高めていく。「皆ある程度の人生経験を積んで、固定観念もある。やっぱり楽しさが根底にないと」。会長の渡辺勝さん(72)が朗らかな笑みを浮かべる。
ただメンバーも観客と同様高齢者。若いときに比べれば物覚えが悪くなり、セリフひとつ覚えるのも一苦労だ。
この日「さくら家七分」の高座名で「番町皿屋敷」を演じた渡辺さんも毎日30分以上、自宅での稽古を欠かさない。「それでもお客さんと目が合うとぱっと忘れちゃったりね」と笑う。
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自分が覚えた芸でお客さんを喜ばせたい。メンバーに共通するのはそんなささやかな思いだ。
だからかもしれない。時間こそかかるが、練習を重ねればきちんと上達する。
「最初は話を覚えるのも無理だと思った。高齢者には無限の可能性があるんだなと」。指導役で「お師匠」の鈴木睦さん(69)はそう評する。
「お客さんの反応があるからまたがんばろうと思える。喜んだお客さんの顔が何よりのやりがい」と渡辺さん。
コロナの収束はいまだ見通せないが、何度も足を運んでくれるリピーターも少なくない。温めている企画だってある。お客さんの「また来るね」の声を励みに、精進あるのみだ。
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