藤沢市文書館が所蔵する小説家の芥川龍之介(1892-1927)の直筆資料について、市と横浜市立大学(横浜市金沢区)は先月25日、修復に向けた協定を締結した。芥川が学生時代に残した資料を後世に残すとともに資料のデジタル化を進める。教養形成や初期作品との関わりについて研究が進むことが期待される。
芥川はかつて鵠沼にあった旅館「東屋」に逗留するなど、藤沢にもゆかりが深いことで知られる。
同館は芥川の死後、資料を管理していた甥の葛巻義敏氏が亡くなった後、96年に親族が寄贈した通称「葛巻文庫」を所蔵。直筆の手帳や草稿断片、東大在学中に使用したノートの断片などが保管されている。
直筆資料は総点565点にのぼる。68年に葛巻氏の自宅が火災に見舞われ、一部資料は劣化が著しい。市では損傷の激しいものを中心に328点を修復してきたが、「相当な時間がかかる」(鈴木恒夫市長)ため、同大の申し出で協力して取り組むことになった。
修復を担うのは、芥川や日本近代文学を専門とする同大国際教養学部の庄司達也教授。今後、ドライクリーニングや脱酸性化処理などを施し、透明なフィルムで挟み込み封印する。修復期間は3年程度を見込んでいる。
庄司教授は「芥川の教養形成については従来、読書遍歴を中心に研究されてきたが、学生時代のノートを通じて分析が進展する」と修復の意義を説明。「東大では英文科に在籍していたが、美学の講義で細かくノートを取っている。初期作品との関わりが明らかになるのではないか」と期待を寄せた。鈴木市長は「市民の閲覧も容易になる。残された資料の修復とデジタル化を早期に図っていきたい」と述べた。
資料の修復を巡っては今年7月、中国出身で筑波大学院生の章瑋(しょうい)さんが「手帳六」を復元し、製本化した資料を市に寄贈している。
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