「獺郷」「大鋸」「打戻」「下土棚」--。藤沢で普段よく目にする地名の数々。その中には読むのが難しいものや個性的なもの、由来が珍しいものが多くある。今回、住んでいる人もよく知らない地名の由来、歴史について調べてみると、その地域に伝わるさまざまな伝説や、これまであまり知られなかった地域の意外な側面が見えてきた。
「獺郷」。藤沢市の北西部に位置し、茅ヶ崎市と寒川町に隣接する。のどかな田園風景が広がり、周囲には小出川や打戻川が流れる自然豊かな地域だ。
ネットで検索すると、予測変換に必ずと言っていいほど出てくるのが「獺郷 読み方」だ。「おそごう」と読む。
「ここにはいろんな動物がいただろうし、カワウソだっていたと思う」。30年以上ウナギの養殖場を営む男性はそう話す。「獺」は1字で「カワウソ」と読む。明治時代初期の史料「皇国地誌」によると、この辺りにはカワウソが生息する沼地が点在していたという。
ニホンカワウソはかつて日本全国の河川や海岸に生息していたが、乱獲や水質汚染によって数が激減。1979年に記録されて以降は生息情報がなく、2012年には絶滅種に指定された。
この地からカワウソが消えたのはいつ頃だろうか。「詳しいことは分からないが、ここには少なくとも約500年前から地名にまつわる伝説が残っている」。そう語るのは東陽院・高倉孝元住職だ。高倉住職によると室町時代後期、開基の忠室宗孝禅師が、この地で田畑を荒らすカワウソの霊を石に封じたという。現在も境内にはその石を祭る祠があり、両脇を小さな狛犬に押さえつけられるようにして安置されている。カワウソはこの地の"守護神"なのだ。
事業所を構える社会福祉法人・光友会では現在、地名にちなんだお菓子「かわうそサブレ」が製造されており、ふじさわ観光名産品にも選ばれている。職員の一人は「田園風景を守る活動している。いつかカワウソが戻ってきてほしい」と語る。
ニホンカワウソは絶滅指定後も日本各地で目撃情報がある。獺郷でもいつかまた、野生のカワウソを見られる日がくるかもしれない。
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