「からすのパンやさん」などで知られる絵本作家・かこさとしさん(1926―2018)の未発表作品「くらげのパポちゃん」の原稿が片瀬山の自宅で発見され、このほど公表された。南の海で戦死した父を持つ子どものために、クラゲの主人公が冒険をするという物語。「戦争の醜さとパポちゃんの純粋さが対照的で、胸を打たれる作品」と長女の鈴木万里さん(66)は話す。
今年から刊行されている「かこさとし童話集」(偕成社)の編集作業中、見たことのない14枚の原稿を鈴木さんが書庫で発見した。「戦争の悲惨さを知らない今の子どもたちの学びに役立てられるのではと感じた」という。
戦争で父親を失った男の子・富吉の成長を、くらげの「パポちゃん」が南の海に沈む父親の甚吉に伝えに行くというあらすじ。「困っている人のためにすぐに行動するパポちゃんの姿にはハッとさせられる」と作品の魅力を語る。
背景に戦争体験
本作が書かれたのは、1950年から55年までの5年間。かこさんが川崎市の工場で働きながら、地域生活を支援するセツルメント活動を行っていた時期と重なる。戦争で親を失った多くの子のため、紙芝居などを作り発表していた。「戦後10年ほどが経ち、復興の中で忘れられていく傷跡や、残された孤児たちについて父は常に考えていた」と鈴木さん。「当時の情報では、出征した兵士がいつどこで亡くなったかもわからない。工業地帯の海に浮かぶクラゲを眺めながら、遠くの地の戦没者に思いを馳せていたのでは」と推測する。「辛い現実を前に、自分にはできない夢のようなことを、父はファンタジーに託していた」
同時期に書かれ、一昨年に発売された「秋」にも、自身の戦争体験が語られている。「今回の原稿も、書かれたのは50年9月から55年10月まで。毎年その時期になると、終戦の前年の秋に見た戦禍を思い出していた」と、かこさんの生涯に貫くテーマとの関連を説明する。
「重たいテーマではあるが、残酷な描写などは少なく、楽しんで読める冒険譚となっている」と鈴木さん。今回の発見を受け、内容を知った人たちから多数の反響が寄せられたという。「皆さんが世に出してほしいと言ってくださっているのは本当にありがたいこと。今後何らかの方法で刊行できれば」と展望を語った。
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