地震による津波が発生した際、「遠く」よりもいかに「高く」に逃げることができるかは東日本大震災で得た教訓だ。だが、もしも日に数万人の海水浴客が訪れる夏に津波が発生したらどうなるか。実は、受け皿である避難先が圧倒的に足りていないのが現状だ。
県立湘南海岸公園(鵠沼海岸)内にある「津波避難タワー」。海水浴客などが避難する施設として県が2012年6月に当時初めて設置した。
鉄骨造のやぐら形式で造られており、最上部に位置するステージは標高12・5m。県などの試算では付近の海岸線には最大で10・7mの津波を予想しており、タワー上では約2mの余裕があるとしている。
ただ、約50平方メートルあるステージ上の収容人数はわずか100人にとどまる。眼前で夏に開設される片瀬西浜・鵠沼海水浴場は全国屈指の集客力を誇り、市観光課によると昨夏最も多い日には約5万5千人が訪れた。
市は、東日本大震災以降、津波の襲来に備え、海岸付近を中心に民間と連携し、「津波避難ビル」の指定を進めてきた。現在、学校や商業施設、マンションなど140カ所が指定されているが、ほぼ全てが国道以北に立地。以南にあるのは新江ノ島水族館(収容1188人)のみだ。市危機管理課では「第1波が到達する6分程度で観光客が国道を超えて避難するのは難しい。現実を言えば、最大級の津波の場合、数万人単位で犠牲者が出る可能性がある」と打ち明ける。
海水浴客の避難先確保はどうすべきか。海岸を所管する県の危機管理防災課に尋ねると、「市町村が一義的に行うべきもの」と回答した。県立公園の施設管理者としてタワーは設置したが、避難先や計画設計など全般については市町村が主導すべきで、県はそれを支援するスタンスという。
これについて市危機管理課は「施設を建設しようにも、市は杭1本すら立てることができない。注意喚起の看板も一時的に場所を借りている状態だ」と不満を口にする。市では毎年施設の増設を県に要望しているが、実現していないという。
とはいえ、施設整備だけでは解決にはならない。「数万人を収容するとなれば、海岸線が施設で埋まる」(同課)と想定され、財政的観点でも現実味が乏しいからだ。
市では海水浴期間中の津波発生に備え、ライフガードと連携し避難を促す「津波フラッグ」の掲出や、毎秋砂浜で津波避難訓練を実施するなど注意喚起に努める。ただ、海水浴客の避難は海を抱える自治体共通の課題でもあり、抜本的な対策を打ち出せずにいる。
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