全国で書店が減少している。インターネットの普及などが主な理由で、出版文化産業振興財団の調査では、全国の市区町村のうち地域に書店が一つもない「無書店自治体」がおよそ4分の1にのぼるという。逆境にあるなか、どのように活路を見出すのか。藤沢市内の書店に聞いた。
辻堂元町にある「湘南T―SITE」は、湘南蔦屋書店を中心にカフェや衣類など約30のテナントが集う。「本を中心に心を豊かにする生活提案の場を目指している」と藤生昌大店長は語る。
湘南に住む人の趣向に合わせ、店舗にはスローライフやサーフカルチャーなどの書籍を豊富に揃え、購入前の本を3冊まで選んでカフェに持ち込むこともできる。「ゆっくりとコーヒーを飲みながら本を選ぶ、贅沢な時間を過ごしてもらえたら」と、デジタルにはないメリットを話す。独自に行った街に欲しいもののアンケートでも、常に本屋が回答の上位にあるという。「地域の人が望むものを残していくという使命感を持って、時代の変化に対応していきたい」と熱を込める。
反転攻勢も
多くの書店が姿を消す中、攻勢をかける例もある。「くまざわ書店辻堂湘南モール店」では、大型商業施設内という立地から、ファミリー層に焦点を当て2022年に売り場を約1・5倍に拡大。児童向けの遊びコーナーを設置した。「週末や休日はたくさんのお子さんに遊んでもらえている」と、奥田祐子店長は顧客層を意識した戦略に手ごたえを感じている。
店内にはテーブルとイスを置き、静かに本を読みながら選ぶことができる空間も確保。「本屋は何時間居てもいい。気軽に寄れて過ごせる、もうひとつの居場所」と存在意義を話す。面積拡大後、来客数は伸びているといい、「インターネットでは『売れている本』の情報が中心だが、お店では本好きのスタッフが実際に読んでおすすめしたいと思った『面白い本』を紹介するように心掛けている」という。
思いがけない本と出合うことも店舗の強みだ。藤沢で40年以上営む古書店「光書房」では、歴史や宗教、哲学などの書籍を扱う。古書ならではの絶版本や希少本もあり、所狭しと並ぶ本を眺めるのは、宝探しのような高揚感がある。戸田光店長は「お客さんは少し減ったかもしれないが、本のファンは根強い」と笑みをみせる。
国が本格支援へ
市内書店数について、藤沢市商店会連合会では「正確に集計していない」と前置いた上で、「10年前と比較しても2〜3割は減少している印象だ」と話す。とりわけ、大手資本ではない「街の本屋」の苦境が顕著となっている。
歯止めがかからない書店の減少に対し、経済産業省は先月5日、大臣直属の「書店振興プロジェクトチーム」を設置。書店を単に本や雑誌を販売する場ではなく、地域の文化を振興する拠点と位置付け、個性ある取り組みを後押しするための方策を検討する。
今後、書店へのヒアリングや、キャッシュレス決済などデジタル化の推進、優れた取り組み事例の周知など、部署横断で支援し、書店の存続に力を注いでいく考え。