親子2代にわたって藤沢市内の障害者通所施設で善意の散髪を届けている理容師がいる。辻堂神台でヘアサロンを営む「HONMA」店主の本間慎弥さん(47)。昨年11月に急逝した父・義和さん(享年71)が30年来続けてきた活動を、このほど受け継いだ。「カットで心洗われる。そんな当たり前を届けていきたい」。理容師として父が大切にした信条を、今後も活動を通して実践していく考えだ。
「こっちは苦手?じゃあ別の方向から切ろうね」。21日、石川の社会福祉法人マロニエ会。本間さんが通所する女性に優しく語り掛けながら巧みにはさみを操った。
チャリティーカットは元々、義和さんが地元同業者と始めた。障害者が店舗で散髪できないことがあると聞いたことがきっかけだったという。
市が優れた技術者を認定する初代の「藤沢マイスター」でもあり、奉仕団体の藤沢ライオンズクラブにも入会するなど、地域活動にも熱心だった。チャリティーカットは同クラブの活動として年に3、4回、同施設で実施。コロナ禍で一時中止となったが、昨年には復活し、10月末には自らカットに立った。
それからわずか1カ月後。「お店で急に倒れて、そのまま息を引き取った」と慎弥さん。偉大な職人の背中が不意に遠くなった。
父を失った悲しみに加え、事業を受け継ぐため多忙な状況が続いた。そうした中、慈善活動を続けるかは岐路でもあった。活動には自らも20年前からも参加。人手や時間など続けるためには課題もあったが、継続に迷いはなかった。「やり方を知っている古参のスタッフもいる。そして何よりも皆さんにさっぱり気持ち良くなってほしい」。決意は固かった。
当日は4人をカット。周囲も明るく盛り上げ、施設は賑やかなサロンのようになった。施設利用者の母親は「きれいにしてくれ、すごく丁寧にコミュニケーションもとってくださってうれしかった」とコメント。慎弥さんは「楽しかった。父の年齢を考えると、あと20年続けないと」と笑顔を見せた。
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