行政のデジタル化が進む中、タウンニュース社は神奈川県内の自治体の電子書籍サービスについて調査した。その結果、県内33自治体のうち、16自治体が公立図書館にサービスを導入していることが分かった。来館せずとも貸出が可能など利点がある一方で、予算や契約上の制限など課題もあり、導入に向けた自治体の姿勢が分かれているのが現状だ。
全国平均上回る
導入しているのは、3政令市や藤沢市、平塚市など、人口規模が大きい自治体が目立つ。一般社団法人電子出版制作・流通協議会が発表した4月1日時点の全国の自治体の電子書籍サービス導入割合は約31%で、県内の約49%はそれを上回る。
県内導入自治体のうち、電子書籍の蔵書数が最も多いのは、大和市で2万2710。全蔵書に占める電子の割合は約3・3%に相当する。
蔵書数が400万を超える横浜市でも電子書籍は1万5570で全蔵書の約0・4%にとどまる。理由について横浜市の担当者は「図書館向けに販売されているコンテンツが少なく、紙の書籍に比べても高額」と説明する。導入後の課題に「利用者数が横ばい」(綾瀬市)、「利用率が少ない」(愛川町)を挙げる自治体もある。
コストが懸念
未導入は17自治体。うち、「電子書籍の利用は回数や期間に制限があり、永続性に欠ける」(寒川町)、「(書籍の)種類が少ない」(大井町)などを理由に現時点で導入予定なしとするのは7自治体。一方、「導入予定がある」は8自治体で時期を示したのは、今年度中に導入予定の横須賀市のみ。ほかの自治体からは「コストを精査する必要がある」(逗子市、清川村)と慎重姿勢の意見が多い。検討中としたのは茅ヶ崎市と箱根町の2自治体だった。
藤沢市では
藤沢市では2022年10月に電子書籍サービスを開始。4月1日時点の蔵書数は約1万3千で全蔵書に占める割合は約0・94%だった。電子図書の購入やシステム使用料について24年度当初予算では約330万円を計上。課題には「コンテンツの拡充」を挙げる。
藤沢市総合市民図書館によると導入当初に比べると利用率は減少傾向にあるといい、「来館せずとも借りられる利点はコロナ禍のニーズと一致していた。利用者の裾野を広げていくため、コンテンツを増やしながら市民に向けたPRも必要」と説明する。
識者「館外でPRを」
図書館行政に詳しく、電子書籍の普及に取り組む専修大学の植村八潮教授(出版学)は「電子書籍の購入・利用費は紙の書籍より高いが、貸し出しに職員が介在しないなど、その先の管理コストが低く済むことを考えるべき」と指摘する。
利用が伸びないことに関しては「図書館職員が館外のイベントで説明会を開き、積極的にアピールして利用が増えた例もある」と図書館利用が少ない30〜40代などへ向けて認知度を上げるべきだとした。
電子書籍はデジタル化された出版物をパソコンやスマートフォンなどで読めるもの。コロナ禍で全国的に急速に普及し、高齢化に伴って図書館来館が難しい人などへのサービスとして、広がりを見せている。国の子どもの読書活動推進計画では、学校を含む図書館がデジタル化を進めることを掲げている。
調査は4月下旬から5月上旬に実施。各自治体に4月1日時点の状況を尋ねる質問を送付し、回答を得た。
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