今年20周年を迎えた「新江ノ島水族館」 を支える人々へのインタビューを通して、華々しい軌跡の舞台裏に迫ってきた本連載。最終回を飾る主役に選んだのは、新館オープンから展示され続けてきたクラゲだ。「えのすいの象徴」ともいえる海洋生物と同館の歩みを紹介する特別展「”えのすい”のくらげ展」が、この夏から秋にかけて開かれている。クラゲの展示飼育を担当する渡部舞さんに、その魅力や見どころ、今後の目標などについて話を聞いた。
「私たちが一生の時間を掛けたとしても、全てを知ることはできないかもしれません」と熱弁する渡部さん。クラゲの魅力は「未だ生態が明らかになっていないロマンにある」といい、自身もそれに魅了された1人だ。
学生時代は分類研究をするなど根っからのクラゲ好き。同館でクラゲ担当になってから早2年。特別展について「多くの人に知ってもらえる機会を得られてうれしい」と顔をほころばせる。
展示の準備には、昨年12月ごろから約半年間を要した。世界で初めて繁殖に成功したアカクラゲや今回が世界初展示となるポドコライナボレアリスなど、同館が手掛けた調査研究の成果やゆかりの種をずらりと並べた。見どころはそれだけにとどまらない。
同館では、職員が毎日近隣の海に出向いてクラゲの採取を行っている。飼育の裏側を身近に感じてもらおうと、実際に採取に使用している網やピペット、バケツといった道具も設置。採取現場を再現した構図にした。狙い通り、それら手作りの道具や毎日の採取することに来場者たちは驚いた。「移動する際に使っていた自転車の使い古し具合を哀れむ声も上がり、買い替えが決まったんです」と苦笑い。思い掛けない収穫となった。
7月から始まった特別展は連日盛況。大きな反響に手応えを感じた一方で、課題も見つかった。来場客の大半は巨大で美しいクラゲを目当てに訪れており、体長が小さいクラゲの魅力を伝える難しさを痛感。現在は「どんなクラゲでも写真で撮りたくなるような展示ができれば」と、桃色の「ナデシコクラゲ」を大きな水槽で展示する構想を練っている最中だ。
伝統を重んじつつ、遊び心を追求する若手スタッフたち。今後はどんな光景を見せてくれるのか。期待せずにはいられない。(連載終わり)
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