『完盗オンサイト』で第57回江戸川乱歩賞を受賞した 玖村(くむら)まゆみさん 辻堂在住 47歳
救いのある作品を
○…「とにかく大変なことになったという気持ち」。応募総数324篇の中から、ミステリー新人賞の最高峰に選ばれたときの率直な気持ちだ。最終選考日、思っていた時間に連絡が来なかったため「ダメだったんだな。ちくしょう」と悔しさ交じりに諦め、ゴルフの練習に出かけたという。「なかなか連絡が取れなかったので、出版社の方を困らせたと思います」と苦笑い。16日に授賞式を終えた今でも「まだフワフワしていて実感がわかない」と言う一方、「周りの人たちが喜んでくれたのは嬉しい」と満面の笑みを見せる。
○…受賞作「完盗オンサイト」は、主人公のクライマーが皇居へ侵入し、名盆栽「三代将軍」を盗み出すという奇想天外なミステリー。結末と冒頭を決めてから書き始めたと言うが「主人公の性格作りに困った。その部分は何度も書き直しましたね」と吐露。ストーリーの風景描写には、今まで歩んできた道のりが反映されているという。
○…東京で生まれ、大学まで相模原で過ごす。文学少女だったかと思いきや、中高でバレーボール、大学でグライダーと、意外にも体育会系。「外で遊ぶのが大好きで、遊ぶ子がいなくなるくらいずっと遊んでいた」と懐かしむ。グライダーの経験から、空の仕事を目指し、CAになったが「受身の仕事に疑問を感じていた。自分がやりたいことをやっていこう」。考えるよりも先に行動するタイプ。それが「小説家」なのは、必然だったのかもしれない。
○…藤沢に来て20年。「富士山も見えるし、海もある素敵なまちだと思う」。趣味のジョギングで、藤沢のまちを走りながらストーリーの構想を練ることも。次作は女性が主人公のミステリー。「救いのない小説は書きたくない。読んだ人の救いになるような作品を作っていきたい」と意欲的に語る姿に、期待を寄せずにはいられない。
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