第163回芥川龍之介賞の結果が15日に発表され、大庭出身の遠野遥(はるか)さん(28)の『破局』が選ばれた。芥川賞は年に2回、純文学を書いた新人に贈られる賞で新人作家の登竜門としても知られる。平成生まれの作家の受賞は遠野さんが初となる。
受賞を受け「自信作でしたが、初ノミネートで受賞する事例は少なく、頂けて僥倖(ぎょうこう)」と冷静だが、家族からは自身が報告する前に祝福の連絡があったといい、「父からは、会見の姿が凛々しかったと言われました」と穏やかに喜びをにじませる。
処女作『改良』で第56回文藝賞を受賞。華々しくデビューを飾ってからわずか1年の快挙だ。河出書房新社の担当編集者は「純文学とエンタメ性を併せ持つ、これまでにない文体は『新時代の虚無』と呼ぶにふさわしい。独自の感性で可能性を切り開いていってほしい」と期待を寄せる。
原風景に藤沢
自作について「小説を書く時、テーマは決めていない」と静かに語る。普段の生活で見かけたものなどを元に、「描きたいシーン」を積み重ねていく創作スタイル。
今作では”男から自転車で坂道を逃げるシーン”を最初に手掛けた。小学生の頃、坂の多い大庭を自転車で鬼ごっこしたこともあり、「具体的に地名を出してはいませんが、自身の記憶する坂のイメージは藤沢のもの」と説明する。
幼少期の読書体験は決して多くない。地元駒寄小のサッカーチームに所属するなど体を動かすことを好んでいた。横浜の高校では友人とバンドを組み、3人組音楽グループ「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」の曲などを好んで演奏した。小説を書き始めたのは慶應大学法学部進学後。世界や国内の名作を片っ端から読破し「一番しっくりきた」と感じた夏目漱石の文体を手本に、ファンタジー、童話など小説のジャンルを問わず意欲的に執筆。新人賞へ応募を重ねた。
故郷で海見たい
約20年間暮らし、慣れ親しんだ藤沢を離れ、現在は都内で暮らす。コロナ禍でなかなか叶わないが「藤沢に戻ったら海が見たい」と郷愁の思いが募る。
現在3作目を執筆中。受賞作とは作風を変え「超能力なども登場するファンタジーに挑戦している」と明かした。「文学ファンに限らず広く読んでもらえる作品を目指したい」と語った。
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『破局』あらすじ:大学4年生の〈私〉は出身高校でラグビーを指導する傍ら公務員試験の準備に打ち込む。規律正しさを求めるストイックさの一方、危うさも併せ持ち、それは同学年の彼女と別れ、後輩の女性へ乗り換えたことを機に、少しずつ崩壊の兆しを見せ始める。
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