サラリーマンボクサーが世界に挑む――。プレス工業(株)(遠藤)に勤務する阿部麗也さん(30・KG大和ボクシングジム)が3月2日、米国ニューヨークでIBF世界フェザー級王者と対戦する。10年以上の二足のわらじ生活の集大成として「必ずベルトを持って帰る」と拳を固く握る。
トラック部品を作る大きな金型が並び、機械油の匂いと研磨の音に包まれる工場で、朝の8時から夕方5時まで勤務する阿部さん。職場を後にしてからのロードワークやジム通いが日課となっている。「最初はつらかったが、今ではこれが自分のスタイル」と、ハードな日々をさらりと語る。
福島県出身。小学生の頃にテレビで見たプロボクサーの世界に憧れた。しかし高校のボクシング部では思うように結果が出ず、同社への就職を機に一度はグローブを置いた。職場の仲間とフィットネス感覚で今のジムの門を叩き、練習する姿が片渕剛太会長の目に止まった。
アマチュアとは違い、プロの試合では柔らかいヘッドギアは無く、小さなグローブから繰り出されるパンチは鋭く強い。だが、集中力を高めて攻撃を避け、長いラウンドで打ち合う試合が「むしろ自分に合っていた」。才能を開花させ、2014年12月に全日本新人王を獲得。22年5月には3度目の挑戦で日本タイトルを手にした。
昨年4月、世界フェザー級2位に勝利し、今回の挑戦権を獲得。王者のルイス・アルベルト・ロペスは攻撃的なスタイルで2度防衛中だ。「確かに強い相手だが、自分が勝利してもっと強いことを証明したい」。初の世界戦に向け、フットワークと得意のカウンターに磨きをかける。
拳に宿る「感謝」
高校卒業以来勤務を続ける同社だが、世界ランキングに入った時、スポンサーを得て退職を考えたこともあったという。だが、父親の言葉で思いとどまった。「今まで世話になってきて、それでいいのか」
現在の上司である組立1課の黒川和作さんは、阿部さんの入社以来、ボクサー活動を支えてきた。「試合の次の日でも出社して、自分の仕事をきちんと有言実行でやり遂げる。だから応援したくなる」と笑顔をみせる。デビュー戦の勝利を会場で喜び、日本タイトルをつかんだ時には思わず涙した。職場でも、残業や休日出勤などは極力配慮し、試合前の合宿なども快く受け入れる。「彼のがんばりが職場の仲間にも元気を与えてくれる。今や皆が応援団」と目を細める。
「配慮してくれている時は、誰かが自分の代わりに仕事をしてくれている。皆のために、世界のベルトを」。自身のプライドだけではない。感謝を宿したサラリーマンボクサーの一撃が、世界戦のリングを沸かす。
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