死産や流産、新生児死を経験した人たちが集まり、我が子への思いを語り気持ちを共有する「カフェ」が鎌倉市内で開かれている。ベテラン助産師と自らも死産を経験した女性が2年前に始めた取り組みで、2人は「話すことが再び前を向くきっかけになれば」と話す。
12年前の出会い契機に
「まなざしカフェ」と名付けた取り組みを行っているのが、市内城廻で助産院を開く長谷川充子さん(71)と、町田市在住の主婦、井上文子さん(48)だ。
2人の出会いは12年前。市内の病院で助産師長を務めていた長谷川さんのもとに、初めての出産を控えた井上さんがやってきた。
しかし井上さんは出産予定日直前、お腹のなかで子どもが亡くなっていることが判明する。待ちわびていた瞬間が、一転して悲しみに包まれる中、救いとなったのが長谷川さんの存在だった。「師長さんの計らいで、生まれた娘をこの手で抱くことができました。また一緒に涙を流して下さったことが、本当に癒しになりました」と振り返る。
それでも井上さんは退院後、大きな喪失感に襲われ、引きこもりがちな日々が続いた。そうした複雑な心境をつづり、長谷川さんに手紙を送ったことで2人の交流が始まった。
「和音ちゃん」と名付けた娘の1歳の誕生日、「お線香を上げたい」とやってきた長谷川さん。井上さんは「本当は『お祝い』をするつもりではなかったのですが、師長さんが持ってきたケーキを食べながらお話をしているとすごく楽しくて、翌年からは夫婦で誕生祝いをするようになりました」と笑う。
一方の長谷川さんも「手紙を読み、医療者としてこの痛み、苦しみに向き合ってこなかったことを反省しました」と話す。
実際、死産や流産を経験した人は、自分を強く責めるとともに幼い子どもを連れた人を目にするだけで「なぜ自分だけ」と思い、周囲が励ますつもりで口にした「次があるよ」といった言葉にも深く傷つくという。
「多くの人がうつ病になったり、夫婦間のすれ違いから離婚しています。最悪の場合は自ら死を選ぶ人もいます」と長谷川さん。そこで2人は2010年、『赤ちゃんの死へのまなざし』(中央法規出版)を出版するとともに、講演などを通じて自らの体験を伝えている。
こうした活動の成果もあり、最近では周産期の「グリーフ(悲しみ)ケア」を取り入れる医療現場も徐々に増えているという。
次回開催は26日
そんな2人が2年前、「つらい気持ちを話せる場所を」と始めたのが「まなざしカフェ」だ。現在、年に3〜4回開催しており、市内はもちろん都内からも参加者が訪れる。井上さんは「何かが解決するわけではなくても、体験を言葉にすること、自分だけではないと思うだけで、前に進む力になる。毎回同じ話をしても構わない。本人だけではなく周囲の家族も気軽に足を運んでもらえたら」と話している。
次回は11月26日(日)、みつこ助産院(鎌倉市城廻496の4)で、午前11時から開催される。費用は軽食付きで1千円。詳細は【メール】manazashicafe@gmail.com、【携帯電話】090・2161・0773長谷川さんへ。
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