鎌倉のとっておき 〈第78回〉 鎌倉春ごよみ
鎌倉の春の風物詩と言えば、パレードや静の舞、流鏑馬(やぶさめ)などで成る「鎌倉まつり」が代表格だが、他にも中世鎌倉を今に伝える古式ゆかしい行事が残っている。
立春を過ぎ、2月8日荏柄天神社で行われる「針供養」。左右に紅白梅を擁する拝殿前に置かれた豆腐に、使い古した針を刺し、ねぎらいと感謝、針仕事の上達と安全を祈るもので、平安時代頃から始まり、江戸時代中期以降、全国に広まったという。
仲春の頃は、3月末に鶴岡八幡宮の舞殿で行われる「献詠披講式」。始めに和歌を詠み上げた後に、改めて曲や節をつけて神に献詠するもので、幕府の歴史書『吾妻鏡』にも、源頼朝が花見の宴で管弦詩歌の儀を行ったとの記録も残る。
晩春の頃は、端午の節句に鎌倉宮で行われる「草鹿(くさじし)」。烏帽子を被った直垂(ひたたれ)姿の射手が2組になり、鹿を形どった的に向け矢を放ち、勝った組の大将には神職から菖蒲(しょうぶ)が授与される。1194年に源頼朝が富士の裾野で巻狩を催した際、草を束ねて鹿の形を作り稽古したのが起源という。
端午の節句には、鶴岡八幡宮の舞殿で「菖蒲祭」も行われる。鎌倉時代、「菖蒲」は武士が大切にした「尚武」(武道や武勇を重んじること)につながるため、男子が元気に育つようにと祈る神事だ。
春、若宮大路の桜も美しい古都鎌倉。古(いにしえ)の武士たちのイベントも身近に感じられるまちである。
石塚裕之
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