市内七里ガ浜在住の森園知生さん(65)がこのほど、江の島を舞台にした自身初の小説『オリンポスの陰翳―江ノ島東浦物語』を上梓した。1964年の東京五輪の際、ヨットハーバー建設のために漁場と故郷を失った漁師一家の辿った運命と葛藤を、時代の移り変わりとともに描き出した。
森園さんは35年前に鎌倉へ移住。大手自動車会社に勤務する傍ら、友人とともに「えのしま探検隊」を結成し、地域情報誌を発行してきた。
また小説コンクールへの応募を重ね、2008年には「第88回オール讀物新人賞」で最終候補に残ったことも。今春、定年退職したのを機に「かねてから夢だった」という小説出版を果たした。
五輪時の秘話題材に
今回の作品は、東京五輪の影で故郷を追われた人々と、その子どもたちが20年東京五輪とどう向き合うのかを描いたもの。4年ほど前、探検隊の活動で足を運んだ地元磯料理店の女将から、現在は江の島と陸続きで、公園になっている「聖天島」(しょうてんじま)がかつては別の島だったこと、そこはサザエや鎌倉海老(伊勢海老)が採れる豊かな漁場だったが、東京五輪に際して漁師たちが補償と引き換えに故郷を立ち退いたことなどを知ったという。
「当時大きな反対運動は起きなかったそうだが、どんな心情で江の島を離れたのか思いを馳せたかった」と森園さん。2度目の東京五輪を前に、過去と現在をつなぐ物語を書き上げた。「周囲からは『湘南以外を題材にした方がいい』という声もあったが、自分の興味が惹かれるものを描きたかった。観光地江の島の誕生秘話ともなっているので、地元の方にもぜひ手に取ってもらえたら」と話している。
自費出版で(株)湘南社から刊行。313頁、税込1650円。地元書店ほか、ネット通販などでも取り扱っている。
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