鎌倉市は2021年度予算に、国指定史跡「大町釈迦堂口遺跡」の崩落対策費を計上した。同遺跡では、落石などによって周辺の隧道が40年以上にわたって通行できない状態が続いている。市は北条義時を主人公にした大河ドラマが来年放送されることを受け、関連史跡の環境整備を進めており、同遺跡も新たな観光資源として公開を目指す考えだ。
工事が行われるのは同遺跡の一部で釈迦堂口隧道(トンネル)の周辺。隧道の上部には鎌倉末期の横穴式墳墓「やぐら」(国史跡)があり、観光地としても人気だったが、1977年に落石があり通行禁止となった。
その後も通行再開を望む声は多かったものの、法面の崩落などが数回あり、現在はバリケードが設置され、立ち入りが禁止されている。
市は史跡の保護と公開に向けて2016年から地質調査を開始。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送が決定したことで、史跡・永福寺(ようふくじ)跡の用地取得など関連する文化的遺産の公開活用に向けて、今年度予算に史跡環境整備事業として1億1700万円あまりを計上した。同遺跡の整備もその一環。2年にわたり行われ、全体で2億円。今年度の事業費は5千万円。
これまでの調査では、隧道周辺に縦方向の亀裂が入り、上部のやぐら全体が崩落する危険があることが分かった。今回の工事は、やぐらを挟むように垂直に穴を空け、そこから水平方向に直径数センチの杭を15本打ち込み、崩落を防ぐ。
法面などは表面を固めるためにコンクリートを吹き付け、落石はネットを付けて対処する。市文化財課は「国と工法について何度も話し合ってきた。素晴らしい景観を損ねないようにしたい」としている。
通行再開へ調整
大町・名越から浄明寺をつなぐ遺跡下部の隧道は、近代になって掘られたものと考えられている。市道路課によると、隧道の利用再開について「今年度から検討を開始する。隧道を挟む前後の道は、住宅街の細い道と山道のようなところなので、通行の安全性確保のほか地域住民との調整も行っていきたい」とする。工事が予定通り進み、調整が完了すれば、約半世紀ぶりに隧道の利用が可能となる。
義時供養に由来
同遺跡は名越ケ谷(大町)と呼ばれる大きな谷戸の一角にあり、平場とやぐら群で構成された丘陵部からなる。
中世に宗教的な目的で行われたと考えられる谷戸の開発と、祭祀信仰のあり方を知るうえで貴重な遺跡として、10年に国史跡に指定された。
釈迦堂口の地名は、北条泰時が父・義時の供養のために創建した釈迦堂に由来する。以前は義時の父で初代執権・時政の邸宅跡と考えられていたが、2008年の発掘調査で年代が違っていることが分かった。さらに周辺に多数のやぐらや、礎石列、玉石敷き、火葬跡などが見つかったことから、未知の宗教的な空間だった可能性が考えられるという。
(公社)鎌倉市観光協会の大津定博専務理事は「隧道の通行が再開されれば、歴史的な価値と鎌倉らしい景観をもった新たなランドマークになるのでは。周遊コースの設定などが可能となれば、人の流れも変わり、オーバーツーリズムの解消の一つになる」と話していた。
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