鎌倉の街を描いた『鎌倉ウィンメル絵本』がこのほど完成し、市内書店などでの販売が始まっている。ウィンメル絵本はドイツ語圏で親しまれてきた、文章がない大判の絵本。制作者は、出版社の有限会社1ミリを営む古谷聡さん(39歳・七里ガ浜東在住)と、発案者の妹尾和乃さん(40歳・同)。イラストはイケシタコウヨウさん(東京都)が手掛けた。
ウィンメル絵本とは、実在する街の景色の中に住む人やキャラクターなどが細かくユーモアを交えて描かれているが、文章は一切ない本。読み手が絵から物語を想像したり、キャラクターや小ネタを探したりと自由に楽しむことができる。
制作した絵本には、正月から大みそかまで、季節の移り変わりも感じられる8つの場面を描いた。観光名所だけではない鎌倉の街全体を舞台にしたいと、大船地区や深沢地区のページも設けた。地元の人ならピンとくる小ネタやキャラクターも随所に散りばめられており、隅から隅まで楽しめる。
きっかけはスイスの本
話が動き出したのは、昨年の初め。古谷さんの元に「ウィンメル絵本の鎌倉版を一緒に作りませんか」という熱い思いと企画をまとめたメールが突如届いた。送り主は、当時スイスで暮らしていた妹尾さんだった。
現地では、書店にコーナーがあるほど一般的なウィンメル絵本。妹尾さんも家族で訪れたチューリッヒの動物園の土産として購入し、その魅力を知った。「物語を与えるのではなく、自ら引き出す。文字の読めない子どもでも、自分なりに楽しめることも面白い」
以前住んでいた鎌倉の街に戻ることが決まったことを機に、絵本を制作しようと見つけた「地元密着の出版社」が古谷さんの(有)1ミリだった。
「単なる児童書ではなく、世代を超えて楽しめる。地域の文化などを感じてもらえることも魅力」と古谷さんは話す。「共生社会の実現を目指す条例」にも鎌倉らしさを感じ、車椅子ユーザーや聴覚過敏の人も共生する街を描いた。「マイノリティーの存在があるのが『日常』。ただ、説教臭くはならないように気を付けた」
絵を担当したイケシタさんは、SNSで見つけた「理想」のイラストレーターだった。「かっこよく温かく、キャラクターも魅力的。世界観がピッタリだった」。初めての挑戦故に手探りでのスタートだったが、「思い描いた通りに仕上げてくれた」と口をそろえる。
楽しめるのは知る街だから
「観光地に限らず、どこの街でも作れる」。その土地の風景や祭りなどの「市民の暮らし」こそ、ウィンメル絵本に向いているという。「知っている場所や文化だから楽しめる。各地にあれば、地元の人だけでなく旅のお土産にもなる。もっとこの文化が広まれば」と妹尾さん。
絵本は税込3520円。たらば書房、ポルベニールブックストアのほか、ウェブサイト「セノアトリエ」でも販売中。(問)有限会社1ミリ【電話】0467・31・2829
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