全盲のテノール歌手・新垣勉さん(69・横浜市在住)の全国ツアーが、9月30日(金)の鎌倉芸術館を皮切りにスタートする。太平洋戦争の終戦から7年後の1952(昭和27)年、沖縄県読谷村に生まれた。「沖縄で生まれ育ったからこそ、平和を歌いたい」という新垣さんに、鎌倉でのコンサートを前に話を聞いた。
新垣さんは、戦後の沖縄に駐留したメキシコ系米国兵の父と、日本人の母の間に生まれた。出産直後、助産師の手違いによって家畜用の薬を点眼され、失明。「生まれた時から『見えた』という記憶はない」。1歳で両親が離婚し、母方の祖母に育てられた。
約20万人あまりの死者が出た沖縄戦。戦後の生活は苦しかった。ある日、飼っていた犬の鳴き声が聞こえないことに気づいた新垣少年は、「ジョンはどうしたの?」と祖母に尋ねると、「お前が今食べている肉だよ」と。新垣さんは当時について、「本当に貧しく、大変な状況だった」と回顧する。
また、通っていた首里の盲学校でも戦禍に遭遇する。鎌を使って校庭の草刈りをしていると、「カチン」という音が。周囲の人たちが調べてみると、戦争でそのまま埋められてしまった人間の骨だった。
光が見えない中で、新垣さんの心を癒したのがラジオから流れてくる沖縄民謡や歌謡曲だった。高校は音楽科のある学校を志望したが沖縄にはなく、理療科へ。「ここで人体の構造を学べたことが、結果的に歌手としての発声にも生きた」。後に、あるオーディションに参加した新垣さんは、有名なイタリア人ボイストレーナーから、「あなたの声は日本人離れしていてラテン的。その声を磨きなさい」。心に抱いていた父への憎しみと決別し、音楽活動に邁進していく。
戦争によって失われた平和を強く渇望する沖縄で生まれ育ち、沖縄戦の悲しみが込められた曲『さとうきび畑』などを通して平和への願いを届ける新垣さん。理療科での経験も含め、「人生に無駄なものはない。戦争を除いては」。
今年5月に開かれた沖縄本土復帰50周年記念式典で国歌も独唱した新垣さんのコンサートは、鎌倉芸術館で30日午後7時開演。全席指定5千円(当日券5500円)。チケット購入は芸術館ホームページなど。(問)【携帯電話】070・3880・5246
![]() 幼少期の新垣さん(右)=本人提供
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