「伝統」-。鎌倉を代表するその産業が鎌倉彫だ。宋の影響を受けて仏具として作られ始めて以来、800年の時を経た。時代の流れとともに生活工芸品へと変遷した鎌倉彫をリードしてきた一家が、鶴岡八幡宮境内に博古堂を構える「後藤家」である。
後藤有布(ゆうの)、30歳。現在の後藤家29代目当主は叔母にあたり、自身は次世代を担う。ただ、これまでは表に出ることに後ろ向きだった。「取材を受けて外に出ることは責任を伴う。家を継ぐことに覚悟が持てていなかったのかもしれない」。大学卒業後の22歳で家業に入り、店内での接客に加え、鎌倉彫職人に求められる「彫り」や「塗り」の技術も工房で磨いてきたが、受け継ぐことへの葛藤とはいつも隣り合わせだった。
芽生えた”前向き”
そんな彼女に昨年11月、1つの転機が訪れた。知人に誘われて徳島県神山町へ。高齢化による過疎化が進む中で、若者の移住促進、IT企業受け入れなどを実現させて”地方創生の聖地”とも言われる場所だ。「田舎は変化を好まないんじゃないかな」。そう思っていた後藤さんにとって、変革した田舎町で老若男女が前向きに暮らしている光景はとても刺激的だった。
幼い頃から、生活には家族が制作した鎌倉彫の盆や器があった。大人になってからは、「自分が作らなきゃ」という思いが日に日に増した。でも今は少し違う。「使いたいものを作ればいい」。そんな前向きな気持ちが、徳島での体験から芽生えるようになった。伝統を大切にしつつ、変化もOKと。
現在、アクセサリーの試作を進めている。ネックレスにブローチ、髪飾り、指輪…。「アクセサリーっていくつ持っていてもいいじゃないですか。気に入ったら長く使いたいし」と後藤さん。例えばネックレスなら、飾りは鎌倉彫の木を使い、チェーンは金具。木材と金属の融合である。長く使えば使うほど、味わいが出てくる鎌倉彫の特長も生かせるかもしれない。
次世代は遠くを見て言う。「自分がいいなと思うものを作った延長線上に、博古堂の新しい形が出てくるといい」
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