鎌倉のとっておき 〈第139回〉 かまくら花めぐり(報国寺)
報国寺は、1334年足利家時(足利尊氏の祖父)により創建された禅宗の名刹(めいさつ)である。竹林をはじめ、茅葺の鐘楼や、枯山水の庭園など見どころも多く、ミシュラン・グリーンガイドでも三つ星を獲得している。
ここに咲く花といえば、早春の頃は水仙や梅。参道の両側に白く咲き、甘い香りが漂う。次に山茱萸(さんしゅゆ)。枯山水の庭園で、沢山の黄色い小さな花を咲かせ、秋にはルビーのような赤い実をつける。
陽春の頃は桜。本堂前の染井吉野は枝ぶりも見事で、満開の光景は圧巻である。春も進むと、本堂前では薄紫色の三葉(みつば)躑(つつ)躅(じ)が咲き、庭園では大手(おおで)毬(まり)が、小さい球(たま)のような白い花を咲かせてくれる。
初夏の頃は紫陽花。境内の其処此処(そこここ)で青紫色などの鮮やかな花々を咲かせる。また、庭園の傍(かたわら)では、半夏生(はんげしょう)が白と緑の美しいコントラストを見せてくれる。そして竹林。年間を通して美しい緑の中、回廊や茶席(休耕庵)が設けられ、笹鳴りを聞きながら、禅寺の風情を堪能できる。
秋の参道では、十月桜が薄いピンク色の花を付け、晩秋には、赤い秋明(しゅうめい)菊(ぎく)や、青紫色の蔓竜胆(つるりんどう)が楚々として咲き始める。
初冬の頃は紅葉(もみじ)。特に、緑の竹林と赤や黄色に染まる紅葉は、冬晴の青空に美しく映える。参道では、散り落ちた葉が、苔むした緑の庭園を紅葉筵(もみじむしろ)に変えていく。
宅間谷(たくまがやつ)に佇(たたず)む報国寺。訪れる人々を静寂な和の世界へと誘(いざな)ってくれる。
石塚裕之
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