バスケ漫画『スラムダンク』のアニメのオープニングで登場する江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅そばの踏切は、ファンの間で「聖地」として親しまれ、多くの観光客が訪れている。昨年12月に上映が始まった映画は、6月3日に国内観客動員数が1000万人を突破した。新型コロナの5類移行や入国制限解除により、聖地は再燃。しばらく続くとみられる踏切付近の熱狂に、地元はどう向き合っていくべきなのか-。2回にわたる連載『聖地〜光と影〜』を通して、今後の対策の可能性を探った。
12月の映画公開から半年で、鎌倉市バスケットボール協会の加盟チームにスラムダンクがきっかけで入会した小学生は2桁に達した。5年生と3年生の兄弟は、映画を観た両親の熱が波及してアニメや漫画に触れ、バスケ挑戦を決めた。30代の父親は、「スラムダンクは日常での人との関わり方も学べる。バスケを通じてチームプレーの大切さを感じてほしい」と期待する。また映画館に足を運んだ6年生男子は、「すぐにバスケがしたくなった」とかねてから打ち込む競技の練習に一層力が入っているという。
スラムダンクの聖地として知られる鎌倉高校前の踏切には、国内からだけでなく、中国、台湾、韓国など外国人観光客も連日訪れる。6月5日に埼玉から来た30代女性は、「アニメの時からのファン。初めて聖地に来た」、20代グループはスマートフォン片手に「オープニングの描写と同じ写真が撮れた」と喜んだ。映画は、年明けから海外でも順次公開。10日に訪れた30代の台湾人女性は、「すてきな景色で感動した」と高揚していた。
16年頃から急増
聖地再燃で鎌倉への観光客が増える一方、踏切周辺の限られた空間に人が密集することは、地元にとってコロナ前からの悩みの種だ。
漫画の連載開始が1990年、日本でのアニメ放送は93〜96年。2000年代に入っても中国や台湾などで放映され、ドラマやアニメの聖地巡礼ブームも追い風となった。鎌倉市都市計画課は「特に2016年頃から踏切周辺が混むようになった」。作品の30年来のファンで、主人公を模したバスケシューズで長崎から訪れた40代女性は「地元の人は迷惑ですよね」と周囲に目を配り、足早に現場を去った。
鎌倉市観光協会・大津定博専務理事は、「市内は映画やドラマのロケ地に多く使われ、聖地巡礼の波が起こる。中でもアニメの息は長く、踏切は鎌倉最大のヒット」と評す。同時に、混雑により弊害が生じるオーバーツーリズムの象徴的な場所とも語る。「観光振興への思いは強いが、交通安全の確保、ごみなど住民への迷惑行為が解決しなければ進めない」(大津専務理事)。踏切を経て、観光客が長谷や江の島に立ち寄り消費する動きはあるが、聖地は混雑するのみでお金が落ちていないのが現状だ。
前年比3倍の苦情
周辺を管轄する鎌倉警察署によると、今年1〜5月の5カ月間に寄せられた踏切付近に関する通報件数は28件。主に混雑や路上駐車の苦情だ。コロナ下の21年は1年間で8件、22年の18件と比較しても今年は3倍以上のペースで推移している。
湘南の海に江ノ電、そして主人公が立った踏切前。7年前からフィーバーが続く聖地で、コロナ前には事故が起きていた。 〈続く〉
鎌倉版のトップニュース最新6件
|
|
|
|
|
|