鎌倉のとっておき 〈第160回〉 かまくら花めぐり(妙法寺(大町))
妙法寺は、日蓮が布教のために建てた草庵跡に、1357年日叡(にちえい)(後醍醐天皇の孫)が再興した寺で、美しい苔の石段があることから苔寺ともいわれている。
ここに咲く花といえば、新春には水仙。まだ寒さ厳しい中、凛とした立ち姿を見せてくれる。そして梅。紅白の花々が春を告げる。大覚殿前の支那実桜(しなみざくら)が薄桃色の花を付ける頃には、桃をはじめ黄色い山茱萸(さんしゅゆ)や白木蓮(はくもくれん)も咲き始め、境内は春色に染まっていく。
初夏には藪手毬(やぶでまり)。本堂前で蝶のような白い花を開く。また仁王門から法華堂にかけて、射干(しゃが)の群生も咲き始める。そして陽光あふれるこの時期、苔の石段も新緑の輝きを一段と増していく。
雨の季節には紫陽花。大覚殿前などで青紫色や薄紅色を深めていく。また支那実桜の周りでは、半夏生(はんげしょう)が緑と白の美しいコントラストを見せてくれる。盛夏に向けて、本堂前では紫や白の桔梗(ききょう)、梔子(くちなし)やオレンジ色の凌霄花(のうぜんかずら)、さらには薄桃色の鹿の子百合やレモン色の浜朴(はまぼう)などが競い合う。
秋には萩をはじめ、紅白の彼岸花やピンクの芙蓉が境内を飾る。そして、楚々と咲く白い秋明菊(しゅうめいぎく)が秋風に揺れる頃、金木犀(きんもくせい)の甘い香りも境内に漂う。
初冬、薄桃色の山茶花(さざんか)がほころぶと、銀杏(いちょう)や紅葉(もみじ)も黄色や赤に染まっていく。その落ち葉が苔の石段に散り敷かれた様は、錦の絨毯(じゅうたん)のごとく美しい。
松葉ヶ谷に佇む妙法寺。四季折々の花々が飾る、鎌倉屈指の花の寺である。 石塚裕之
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