漁師との「二足のわらじ」を履きながら、「大部屋俳優」として数々の名作に出演してきた加藤茂雄さん(長谷在住・93)の初主演映画『浜の記憶』が、このほど完成した。6月1日(土)には材木座にある光明寺で上映会が開かれる。加藤さんは「若者からお年寄りまでたくさんの人が、この作品を観て元気になってもらえれば」と話している。
「脇役」として活躍
1925年、江戸時代から続く市内の網元「長四郎網」の分家に生まれた加藤さん。20歳で旧陸軍に召集されるが、その15日後に終戦を迎えた。
転機は翌年、光明寺に開校した「鎌倉アカデミア」に入学したことだった。演劇科の一期生として学び、「自由な気風や演じることの奥深さに魅了された」という。
在学中の48年に「春の目ざめ」で初舞台を踏み、卒業後は映画会社東宝に入社。大部屋俳優として、黒澤明監督の「七人の侍」では村人、本多猪四郎監督の「ゴジラ」では逃げ惑う人など、様々な役柄を演じた。すし屋の店主のオファーがきた時は、実際に店に行って技術を学び、豆腐店でおからを買って握りの練習もしたという。「人一倍、人間観察に努めた。偽物を本物に見せないといけないからね」。主役ではないが作品に厚みを持たせる役割にやりがいを感じた。
その後、テレビや舞台、声優など、幅広い分野で活躍。「今まで元気でいられたのは、与えられた役に没頭できたから」と振り返る。また本家の網元に後継者がいなかったこともあり、役者をしながら漁にも出続けた。
2017年に公開されたドキュメンタリー映画「鎌倉アカデミア 青の時代」で、加藤さんと知り合った大嶋拓監督から「俳優生活70周年を記念して主演映画を作りたい」と持ちかけられたのは2年前。「この歳で主演の話がくるなんて夢にも思わなかった」と語る。
実生活と重なる漁師役
今回、加藤さんが演じたのは、長谷の海岸付近で一人暮らしをする老漁師・繁田。実生活とも重なる役どころだ。
繁田はある日、亡き祖父が漁師だったというカメラマンの少女・由希と出会う。やがて2人は、互いの空白を埋めるかのように市内の海岸や古寺を巡り、次第に親しさを増していくストーリー。
撮影期間は、昨年9月から約1カ月間。加藤さんは「台本覚えるのは大変だった。記憶するだけでなく、声の出し方や感情の入れ方にもこだわったからね」と振り返り、「スタッフがカメラ横で台本のカンペを出してくれたり、こんな私をサポートしてくれて大変ありがたかった」と話す。
上映会場は光明寺の開山堂。「浜の記憶」は午後1時から上映。3時から「鎌倉アカデミア 青の時代」も同時上映。当日は、加藤さんのトークイベントもあり。
入場料1000円。前売り券は長谷駅近くのコーヒー店「idоbata」で取り扱っているが、当日会場でも販売。(問)鎌倉アカデミアを伝える会の小泉さん【電話】090・3007・9025
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