今回のテーマは、鎌倉駅周辺の無料で誰でも利用できる公共の喫煙所について。2019年9月、同駅西口駅前時計台広場の喫煙所が「受動喫煙防止対策を施した喫煙所の整備は難しい」と再整備に伴い撤去され、公共の喫煙所は姿を消した。その後、駅周辺では新たなものは設けられずゼロのまま。喫煙者はどうしているのか。非喫煙者はどう感じているのか。市民や観光客の声、市の方針や対応などを調査した。
鎌倉駅周辺の路上喫煙禁止区域は駅の東西や若宮大路、小町通りなど=左図。この周辺で喫煙できるのは飲食店内ばかりで、公共の喫煙所はない。「路地裏でこっそり吸う人もいて困っている」という住民もいる。
大船駅周辺では、受動喫煙を防止するため屋内型(屋根のある密閉型)の喫煙所が東口歩道橋階段下にあり、無料で誰でも利用できる。
鎌倉駅周辺の喫煙所がゼロという現状を街の人はどう感じているのか。
分かれる街の声
「設置を望む」と話すのは、鎌倉駅周辺で働く喫煙者(30代)。「喫煙できる場所がないので、我慢している。無料の喫煙所があれば助かる」。「離れた場所のコンビニは吸えるので、商品を買い利用させてもらっている」(40代)との声も。
一方、「喫煙所は不要。煙や臭い、吸い殻などの影響を非喫煙者に与えないで」と訴えるのは、非喫煙者の40代。「設置するなら利用料を徴収しては。たばこで利益を得ている企業や店が設置すべき」とも話す。
「歩きたばこやポイ捨てを抑制できそう」と賛成派の非喫煙者(20代)も。「マナーや副流煙がやり玉にあげられるが、配慮の行き届いた政策の実行で、すべての人が共生できる社会になる」
観光客からも「なぜ」
鎌倉駅東口の観光案内所では、国内外から訪れる観光客から喫煙所の場所を1日5〜10件ほど尋ねられるという。「西口の喫煙所閉鎖後から増えている。喫煙できる店を紹介しているが、『なぜないの』という声は多々ある」と窓口職員。
10年以上前まで店先に灰皿を置いていた土産店では、吸い殻以外のごみも捨てられ、何度かボヤ騒ぎになり撤去した。「喫煙する権利もあると思う。マナーさえ守ってくれたら」(店主)
市観光協会も「誰もが楽しめる観光地であるためには、喫煙所はあった方がいい」とし、「隠れて吸い、ポイ捨ても増え、街が汚れるという悪循環も」と憂慮する。
日本たばこ産業株式会社(JT)では、コンビニなどへの灰皿設置の提案、光明寺などでのイベントに合わせた臨時喫煙所の設置、喫煙所情報をまとめた地図公開などにも取り組んでいる。19年には、休業中の飲食店で臨時喫煙所を1カ月間設置。多い日には1日300人超が利用し、8割以上が観光客だった。「鎌倉は文化財や歴史的建造物も多い。隠れて吸うことでの失火も懸念される」と、鎌倉ならではの必要性も語った。
ほかの街ではどうだろうか。例えば、観光地。横浜・関内・桜木町など、観光客も多い駅周辺に喫煙禁止区域を設けている横浜市は、その区域内に複数の喫煙所を市が設置している。
02年、全国初の路上喫煙を禁止する条例を施行し、区内全域を対象にしたのは東京都千代田区。同区は、受動喫煙防止の観点から当時なかった屋内型喫煙所の設置や、補助金交付による民間への協力要請も積極的に実施。現時点での公共喫煙所は70カ所以上あるが、「区の直営は3カ所。民間の協力が大きい」
設置できない理由
鎌倉市も理由なく西口の喫煙所を閉鎖したわけではない。元々煙などの苦情があり、屋内型喫煙所の設置を検討したがスペースが足りず断念。条件の合う場所があれば、大船のような喫煙所を開設したい考えだ。
民間企業や市民に対しても、喫煙所設置等に対する補助金交付を掲げている。金額は、屋内型喫煙所や専用室の設置に最大500万円、維持管理に年間最大240万円。だが、施行からまもなく4年になるが、交付実績はゼロ。市議会では、制度を紹介するウェブページの見つけづらさや周知不足の指摘もあった。
市は、設置の必要性も感じており、商店や土地所有者に協力を呼びかけているが、費用や場所などのハードルの高さに加え、「喫煙者が集中する」「近隣からの苦情、店のイメージダウンが不安」などの声もあり、実現には至っていない。
鎌倉駅周辺での喫煙所再設置には、地域の協力が必要となってくる。
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