鎌倉のとっておき 〈第148回〉 かまくら花めぐり(本覚寺)
本覚寺(小町)は、1436年室町期の鎌倉公方(くぼう)(東国を支配する長官)・足利持氏(もちうじ)により建立されたが、元々ここは鎌倉幕府の裏鬼門(南西)に当たり、源頼朝が鎮守として夷堂(えびすどう)を建てた場所だったという。日蓮の遺骨が分骨されたことから「東身延」とも呼ばれ、正月には商売繁盛を願う「本えびす」などの行事で賑わう。
ここに咲く花といえば、早春の頃は河津桜。鐘楼前で濃桃色の花を開く。傍らでは紅梅の甘い香りも漂ってくる。春が進むと、本堂横では、枝ぶりも見事な枝垂桜が薄桃色のヴェールを纏(まと)ったように咲き、向かいの染井吉野や八重桜の古木も、これに呼応するように咲き始める。
初夏の頃は紫陽花。御分骨堂前や鐘楼近くで、薄紅色や青紫色の鮮やかな花を咲かせる。紫陽花の盛りが過ぎると、庭園左ではオレンジ色の凌霄花(のうぜんかずら)が咲き始める。
盛夏の頃には蓮。庭園で一つまた一つと開き、見頃を迎える。客殿前では、樹齢100年を超える百日紅(さるすべり)が、沢山の明るいピンク色の花を付ける。
夏から秋にかけて、蓮が終わった庭園では、白やピンクの芙蓉(ふよう)が咲き始める。夷堂近くで彼岸花が咲く頃には、客殿手前の金木犀(きんもくせい)がオレンジ色の花を付け、甘い秋の香りを放ち始める。そして初冬の頃には、鐘楼前の銀杏(いちょう)が黄色に色づく。
鎌倉七福神の夷神が祀られ、眼病にも効能があるという本覚寺。訪れる人々が穏やかで優しい笑顔になれる、ありがたい名刹(めいさつ)である。
石塚裕之
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