JR茅ケ崎駅南口そばの喫茶店「チェス」(幸町22の29)が5月いっぱいでの閉店を決めた。半世紀にわたって地域に愛され、まちの変遷を見つめてきた名店がまた一つ姿を消す。
同店がオープンしたのは1968(昭和43)年。オーナーの左藤裕康さん(73)の父が南口で営んでいた紳士服店の2階にあった喫茶店がその前身だ。「父の知り合いがやっていて、学生の頃からバイトしていた。そうしたらある時、『君に店を譲りたい」と言われて」。大学卒業後、左藤さんが本格的に経営することになった。
78(昭和53)年には駅前の再開発と区画整理に伴って現在の場所へ。高度成長からバブルへと向かう時代、周囲に外食店がほとんどなかったこともあり、連日多くの人が訪れた。左藤さんは「特に海水浴シーズンは、毎日のように朝8時の開店前から行列ができた」と当時を振り返る。
初めはコーヒーと軽食だけだったメニューは時代や来店客のニーズに合わせて、スパゲティーやカレー、シチューなどどんどん増えていった。「成り行きで始めて、大変なこともたくさんあったけれど、何よりお客様との触れ合いが楽しくて。だからこんなに長く続けられたと思う」。
その多くの時間をともにしてきたのが妻の美枝子さん(69)だ。2人は「ケンカしていても店ではどうしても話さないといけないから、気づいたら仲直りしてる。それでも常連さんには『いまケンカ中?』って気遣われることがしょっちゅうあった」と笑い合う。
商談・見合いが上手くいく席も
実は入ってすぐ左のボックス席にはある「ジンクス」が。「この席で商談やお見合いをすると上手くいくっていう噂が広まって『絶対にあの席で』と予約する人も多かった」と美枝子さん。50年の歴史のなかでは、同店で見合いやデートを重ねたカップルが結婚を報告しにきたり、生まれて大きくなった子どもが常連客になったことも数多くあった。
レトロブームで人気
最近では木目を生かしたカウンターや時を重ねた調度品が生み出す独特の雰囲気が注目され、多くのドラマや映画の撮影が行われている。SNSでも話題となり、週末には「レトロ」好きの若者が多く詰めかけるなど、今も人気の同店。それでも閉店を決めた理由について左藤さんは「スタッフと建物の老朽化が一番」と語る。建物が現在の耐震基準を満たしていないこともあり「数年前から考えてきた」。
今月に入り閉店を知らせる張り紙を出したところ、連日多くの常連客が来店しているという。「皆さん『やめないで』『寂しい』と言ってくれる。自分たちで決めたことだけれど、やっぱり後ろ髪を引かれる思い」と複雑な表情を浮かべる左藤さん。5月31日の閉店までイベント等は予定していないという。「それが自分たちらしいと思って。最後の日までこれまで通り、お客様との時間を大切にしたい」
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