「農薬や化学肥料を使わない安心安全な野菜を、誰もが食べられる世の中に」。茅ケ崎里山公園に隣接する農地では、年齢も職業もさまざまな若者らが「自然栽培」による野菜づくりを通じて、生産者と消費者のかけ橋となるユニークな取り組みを行っている。8月には都心や遠方からの援農ボランティアの宿泊を受け入れる「ファーマーズハウス」を開設。日本の農業や食糧の課題について、それぞれの立場で見つめ直し、持続可能な農業を目指すNPO団体「ふるさとファーマーズ」を取材した。
川崎市出身の会社員・石井雅俊さん(34)が昨年5月に発足した同団体。コロナ禍で、日本の食に対して危機感を覚えたのがきっかけだ。各国が穀物の輸出を一時規制したことや、国内のスーパーから小麦粉や大豆製品が消えたのを見て、一念発起。大手住宅メーカーも退職した。「日本の食を守りたい」という思いを持つ有志らでチームを組み、これまで藤沢の有機栽培農家を皮切りに、愛川町や千葉などで援農を行ってきた。
現場を知るにつれて感じたのは、生産者と消費者それぞれの「食」への意識を変える必要があるということ。石井さんは「効率や価格、見栄えなどの目先のことだけでなく、次世代により良い暮らしや安全な食の『種』をまくことが必要。それなら、自分たちが両者の間に入って、つなげていこうと思った」と語る。
そこで、子どもや若い世代を中心に、農業体験を通じて、日本の農業の現状や食育について学んでもらう援農ボランティアの受け入れを展開。そのほか、小売スーパーの社員による農業研修、地元農家との交流、街でのマルシェなど、多岐にわたる活動を行っている。
後継者がいない農地で自然栽培
茅ヶ崎での活動は今年4月から。里山公園のつてで、後継者がいない芹沢の農家・田代喜一さん(74)の畑の一部を石井さんらNPOが運営し、里山公園もサポートに入ることが決まった。
「ここでは薬も肥料も一切使わず、土の微生物や雑草の根、虫などの力を生かして、種から野菜を育てています。理想は『鎌1本、鍬1本』の農業」。その言葉通り、畑には土や畝が見えないほど草が生い茂り、大豆の葉は虫食いだらけ。葉には色鮮やかな蜘蛛やキリギリス、はたまたキジの卵まで。一見、荒地にしか見えないが、よく見れば野菜たちがじっくりと根を下ろし、養分を蓄えている。春から10品目以上を収穫し、適正価格での販売も実現させた。
そんな横で田代さんは「草ボーボーの畑で周りからも心配されているんだけれど、『彼らがやっているのは”原始農業”だから、温かく見守ろう』って言ってるんだよ」と目を細める。
食の未来へ種まき
石井さんは7月に茅ヶ崎へ移住。8月に開設した「ファーマーズハウス」には、すでに大学生の長期滞在が決まっている。「コロナ禍で食や本当の幸せについて見つめ直す人が増えている。『今だけ、自分だけ、お金だけ』という考えではなく、ボーダーレスでいろんな人を巻き込みながら次世代への『種』をまいていきたい」
老若男女問わず援農ボランティアを随時募集。詳細はホームページやフェイスブック、インスタグラムを。(問)石井さん【携帯電話】080・6718・1346
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